まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「日本の死角」現代ビジネス

どんな本

講談社「現代ビジネス(2010年創刊で月刊閲覧数4億ページビュー超えの日本最大級メディア)」に掲載された論考集。いま日本はどんな国なのか?私たちはどんな時代を生きているのか?見えていない日本の謎と難題に迫る!

 

感想

素晴らしい執筆者陣による素晴らしい論考が詰まった一冊。複雑で難解な現代社会を一部ではあるが明瞭化し理解することができた。これらの問題から私たちは目を逸らさずより良い未来を子ども達に残していかなければならない、あらためてそう強く思った。

 

表紙

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要約・メモ

(日本人は集団主義という幻想)高野陽太郎認知心理学

  • 日本人は集団主義は証拠なし、ただの事例。事例はどんな主張でも証明できる。事例でなく比較を。
  • 最も個人主義的なアメリカ人と比較。科学的な比較では日本人とアメリカ人は変わりなし。
  • (ローウェル)極東の魂で日本人の個性のなさを繰り返し主張。あくまで先入観によるもの。
  • (ルースベネディクト)菊と刀、戦時中の日本人が見せた集団主義的行動を、日本文化に特有な集団主義の証と見誤り。
  • まとめ:科学的な比較研究は「日本人は集団主義」という常識を否定。欧米優越思想が蔓延していた19世紀の遺物にすぎない。

 

(日本人が移動しなくなっているのはなぜ?)貞包英之:立教大学教授

  • 地方賛美の声、突然つぶやかれ始めたのではなく、戦前の農本主義や1970年代の地方は都会人が立ち返るべき魂の故郷論。
  • 注目すべきは地方が単に持ち上げられているわけでなく、「移動」の変容というかたちで地方にとどまる人が増え続けていること。
  • 日本では20歳以下の若者の移動率多いが、その年代でも減少傾向。
  • 階層化、格差化し、移動できるものと移動できないものの二極化進行。そのはてに飲み屋やまちづくりの場で同じ一定の集団。そうでない人はひっそりと暮らす。
  • ①かつての上京者:永山則夫、②現代の上京者:木嶋佳苗、三橋歌織、③次世代の移動者:加藤智大
  • 地方暮らしと東京暮らし、地方を転々とする第三の道、それぞれに快適さと地獄があること。犯罪者たちの生の軌跡が、社会における生きがたさのあり方を照らし出す。
  • 移動することはそれでもなお一定の人々にどれほど大きな魅力になり続けているのかをその分だけ現す。

 

(日本人が好きなハーバード式・シリコンバレー式教育の歪みと闇)畠山勝太:NPOサルタック理事

  • 教育政策の分野では、普遍的とは言えない特定個人の体験に基づく教育政策提言がなされやすい傾向。理論的・実証的な裏付けなくても、ネームバリューがもっともらしさを持たせる。
  • 米国の驚くべき教育格差。貧しい州に対して手厚い支援をすることなく、その資源を自分たちの州の教育のためだけに使用した上に成り立っているもの。
  • 日本人がシリコンバレーで見る素晴らしい教育は、すぐ隣にいる貧しい黒人やヒスパニックを徹底的に排除し、自分たちの子弟の教育のためだけの上に成り立っていることを理解すべき
  • 貧しいけれど平等な日本の教育システム。①日本の貧しさ:全米で最も貧しいミシシッピ州より世帯所得の中央値が低い。②日本の教育の平等さ:義務教育費国庫負担金制度、富裕層からの税収が貧困層に回るシステム。
  • 米国教育論は、米国教育のごく一部しか見ておらず、日本も参考にすべきというのは暴論でしかない。

 

(日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと)藤田祥平:小説家

  • 私はバブル崩壊の暗雲立ち込める1991年に生まれた失われた世代の落とし子。
  • 深センの街中で)そうして26年が経った今、人間がここまで希望をもって生きて良いものだと想像もしなかった。
  • 中国の物量を認識し、彼らに魚の味ではなく、魚の釣り方を教える戦略に切り替えろ。
  • 読み終わった英語の教本を売り、中国語の教本を買え。
  • 俺たち若者は疲れ果て飢えている。いつまでも俺たちを戦わせ続けるなら、こんな国から出て行くぞ。
  • 頼むから私たち若者をあなたの愚痴に付き合わせる案山子としてではなく経済的な鉄砲玉として使ってくれ
  • あなたは若い頃、米国に対してそうしてきたではないか。あなたが生き延びて帰り、この社会をここまで豊かにしたのは、上官の命令を忠実に守ったからでなく、自分の頭で考え行動したからではないか。
  • 私たちにも同じようにやらせてくれ。そして私たちにこどもを作らせてくれ。
  • 20代に機会を与えよ。我々に恩を与えよ。私たちは日本を捨て勝手にやる。一斉にではない、能力のある者から順番にだ。

 

(いまの若者たちにとって「個性的」とは否定の言葉である)土井隆義筑波大学教授

  • ①まじめだね、②おとなしいね、③天然だね、④個性的だね、⑤マイペースだね、友達から言われて最もイヤな言葉は?④。
  • 個性的だけは良い意味に取れない。中学生たちの共通認識。
  • 若者世代の人間関係の希薄化。当面の付き合いに必要な情報だけ共有できていれば、濃密な関係築けるとの考え。全面統括型でななく、一極集中型のコミュニケーション。
  • 人間関係の流動性が高まり、各々の局面で付き合う相手を切り替え容易、その場面で必要とされる情報で十分。
  • 一匹狼よりぼっちの回避
  • 今日の若者たちは、かつてのように社会組織によって強制された鬱陶しい人間関係から解放されることを願うのではなく、その拘束力が緩んで流動性が増したがゆえに不安定化した人間関係へ安全に包摂されることを願っている。
  • 現在は一人でも生活しやすい社会に。しかししがらみから解放され自由度の高い社会だからこそ、つねに誰かと繋がっていなければ逆に安心できない。
  • それを欠いた人間は、価値のない人物と周囲から見られないか他者の視線に怯える。その意味で、じつは今日は一人で生きて行くことがかつて以上に困難な時代なのである。
  • 社会的動物である人間は、他者からの承認によって自己肯定感を育み、維持していく存在。今も昔も変わらない。ただし、かつて強力な承認を私たちに与えていたのは、社会的な理想や信念など抽象的な他者だった。その評価の基準は普遍的で安定、いったん内面化された後は人生の羅針盤として機能しえた。
  • それに対して今日では、社会が後景化して抽象的な他者のリアリティが失われた結果、身近な周囲にいる具体的な他者の評価が前面にせり出している。しかもその評価の基準は、場の空気次第で大きく揺れ動く。その都度相手の反応を探り合わなければならない。
  • ゆとり世代の若者たちは、やる気の足りない人間というわけではなく、人間関係に過剰なほど気遣いを示す人々だと考えるべき。チーム全体でやる気を出し創造力を発揮するのはOK。感性豊かな彼らの創造力を活かし、企業の業績アップへ。彼らの生きて来た環境に想像巡らせて。

 

(日本の学校からいじめが絶対なくならないシンプルな理由)内藤朝雄明治大学准教授

  • いじめを蔓延させる要因。学校というおかしな閉鎖空間と人間距離
  • 多くの人は「いじめ」という言葉を使い、ものごとの正義の問題ではなく教育の問題として扱う「ものの見方」に引きずり込まれてしまう。いじめかどうかという問題にすりかえてしまう。悲しいことに学校で起きている残酷に立ち向かおうとする情熱のある人たちもそのトリックに引っかかる。
  • 認定すべきは、それが犯罪であり、加害者が触法少年であり、学校が犯罪やり放題の無法地帯と化したこと。責任の所在を明らかにすること。
  • 学校とは何か、それが問題だ。日本の学校はあらゆる生活を囲い込んで学校のものにしようとする。集団生活を押しつけて人間という素材から生徒らしい生徒を作りだそうとする。
  • 社会で当たり前に許されないことが、後では当たり前に許されるようになる。
  • 大切なことは、人が学校で「生徒らしく」変えられるメカニズムを知ること。自分が受けた洗脳がどういうものであったかを知る作業であり、人間が集団の中で別の存在に変わる仕組みを発見する旅である。

 

(家族はコスパが悪すぎる?結婚しない若者たち、結婚狂の信者たち)赤川学東京大学教授

  • 日本の少子化の要因は、結婚した夫婦が子どもを多く産まなくなっているのでなく、結婚しない人の割合の増加にある。
  • 2人の社会学者が風穴。一人は荒川和久氏「超ソロ社会の衝撃」。日本の20年後は独身者が人口の50%、一人暮らしが4割となる社会。
  • ソロ男やソロ女が作り出すソロ社会が孤立社会ではないという強いメッセージ。
  • もう一人は永田夏来氏「生涯未婚時代」。結婚を目標やゴールと考えるドラクエ人生、結婚するかどうかは場合によると考えるポケモン人生を分けているのが特徴的。
  • 「結婚をする人生もしない人生も同じくらい尊い」と述べ「自分と違う選択をした人々に寄り添いながら、それぞれの人生を尊重する」という思考力を持つことを1人ずつでも増やしていくことが、障害未婚時代を明るく照らすと結んでいる。
  • 若者が結婚しにくい理由:それは格差婚、すなわち女性が自分よりも学歴や収入など社会的地位の低い男性と結婚する傾向が少ないままだから、ではなかろうか。

 

(女性に大人気「フクロウカフェ」のあぶない実態)岡田千尋NPOアニマルライツセンター代表理事

  • そろそろ苦しむ動物を見て楽しむことをやめるとき。
  • 日本人はネグレクトや拘束など静かな虐待には鈍感
  • フクロウのくりっとした目で人を見据えるのは可愛いと感じるかも知れないが、眼球を動かす能力がないためであり、決してあなたのことが好きだからではない。

 

(差別とは何か?アフリカ人と結構した日本人の私が今考えること)鈴木裕之国士舘大学教授

  • あらゆる分野で「多様性」という理念が尊重されている現代。あたかもそれとセットであるかのように、さまざまな「差別」という現実が世界を騒がせている。差別とは古くて新しい問題。人間社会の鬼門
  • 私たちの中に、差別感情を持ったことのない人など、存在するのだろうか。
  • あらゆるレベルでの差別を告発し、社会の仕組みを変えてゆくことは必要であろう。だが、制度よりも「心の動き」が大切であることを忘れてはならない。
  • 差別を生み出す精神構造は私たちみなが持っている。ヒトはその置かれた環境におおきく左右される動物。差別主義者を攻撃するのではなく、差別が生み出される環境を理解しなければならない。
  • 必要なのは抽象的な理念でも大袈裟なイデオロギーでもなく、人と人とのコミュニケーションの中で「落ちる」瞬間を具体的に体感し、その経験を積み重ねて、自身の心の中に自由な空間を広げてゆくことなのだ。