まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「平等バカ」池田清彦

どんな本

偽りの公平から目を背けるな!上っ面の平等だけを追い求める平等バカの先にあるのは、不公平であり時にそれは深刻な格差につながる。原則平等に縛られる日本社会の異常を問う。

 

感想

読み始めはよくある週刊誌のコラム欄的な雑感書と勘違いしたが、読み進めるごとに日本社会の確信を突いた論述の数々、自分にも十分当てはまる部分が多々あり、目から鱗であった。特に多様性についての考え方は今後の大事な指針としていきたい。

 

表紙

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目次

  • はじめに
  • コロナ禍と平等主義
  • 見せかけの平等が不公平を生む
  • 人間はもともと不平等
  • 平等より大事なのは多様性
  • 「平等バカ」からの脱却
  • おわりに

 

要約・メモ

(第1章)

  • コロナによる一斉休校は愚策、するしないで分けてどちらが効果的かを調べるべきだった。
  • GOTOトラベル、他にもっと良いやり方があったはず。大金を払える人ほどお得感が金銭的な不公平感に不満の声。全国一斉の停止措置には素直に受け入れる国民。「みんながダメなら平等だ」。
  • 平等主義の裏にある無責任主義。誰かが言った通りにすればそれがうまくいこうが失敗しようが自分が責任を取る必要がない。
  • 国や役人は手間をかけたくないから平等を使う。りんご3つを3人に分ける際、個別の事情はなるべく見ないようにして同じ数を配ったり逆に配ること自体をやめてしまう。手間を惜しんでいては、結果の平等つまり公平は実現できない
  • 平等主義とは一種のの事なかれ主義。
  • 完全なる公平はありえない。
  • 公平とは、質量的にあるいは時間的に、ある程度の幅の中で成立するものだと考える方が現実的であり、合理的なのである。
  • ある程度の幅、限度を超えればそれは単なる不公平。国民は自粛、オリンピックは改正と言う矛盾、日本人の倫理観や道徳観を根底から揺らがせた。
  • 10万円一律給付者受け入れられた理由。普段通りの生活が送れないと言う意味では国民は平等に不利益を被っていた。一定の迅速性とシンプルでわかりやすい仕組みがあったから。

(第2章)

  • 農耕の始まりが不平等を生んだ。自由意志に任せて行うのが資本主義の原理。そこにおいて不平等はそれほど問題ではない。
  • (アダムスミス)自由競争によって市場経済が発展すれば富の生産が増大し、結果的にはその富が社会の底辺にまで分配されると考えた。ただし彼があるべき姿としたのは、国が豊かになって人々の生活水準が上がることであり、平等な社会の実現ではない
  • スミスの見立てでは富は全て使用されるものだった。資本家が儲けたお金をさらなる生産のために投じると言う前提。ところが実際の未来はまるで違った。多くの投資家は儲けたお金を再投資し実体経済にはほとんど影響しなかった。
  • 日本は自由を標榜する国なので、表向きは機会の平等が保障されている。ただし100メートル競走をするのに、ゴール直前からスタートできる人がいる一方、本来のスタートラインよりだいぶ後から走り始めなければいけない人が大勢いる、それが今の日本の現実。
  • 経済格差は拡大再生産される。
  • 働いていてもいなくても、国民に一定のお金を支給するベーシックインカム制度の導入。AIかにより市場の儲けが莫大になる。そのうちの8割位を原資に徴収する。すべての人に一律支給、もらったお金をため込もうとする人がいるから紙幣は使用期限を限定する。前提はあくまで貯めるではなく使う。
  • 経済とは限りある資源や資金をどう分配してどう循環させるか。極端に人口が少なければすべてに行き渡る。AI化の先のベーシックインカムの導入と人口減が同時に進めば、格差は解消されると予想。(実現は50〜100年後か)
  • 富裕層に都合の良い税制。累進課税、所得4000万以上は税率同じ。株による収入は分離課税20%。
  • 消費税は広く公平に課税されてなどいない。10%の重みの違い。法人や事業主の課税の仕組み大甘。
  • 平等に働いても賃金は不平等になる理不尽。一部の人だけが儲かる仕組み、非正規雇用の増加と貧困。
  • 多くの企業が低賃金を前提に経営、賃金上げると人減らすか赤字に。国のほうで非正規労働者に金を撒いては。あるいは生活必需品だけ消費税を廃止するなど。
  • 社員の一定割合を正社員とするなどの法律決めては。

(第3章)

  • 人間は生まれつき不平等、しかしあたかも人がもともと平等であるかのように成立しているものが山ほどある。
  • 日本の公立小中学校、基本的には全員が同じ授業を受けている。人の頭脳は平等でない。レベルに付いていけない子はますます落ちこぼれる。
  • 習熟度別にクラス編成する方が合理的。序列をつけるといじめなど他の問題も。子どもたちは早々に格差社会を生きる。
  • 平等に教えるのは、法律や税制、カラダのこと、生きていくために最低限必要な基本だけに。あとは自分の好きな事を学ばせては
  • 人間のIQは6〜7割遺伝で決定。たとえキャパが小さくてもその大半を具現化できれば生かしきれてない人よりは優秀。
  • 受験に役立つ才能はあらかじめ決まった正解に早く到達する能力だが、実験やフィールド調査は試行錯誤しながら正解を探す能力。大事なのは型にはまった一流ではなく自分が得意なことを見つけて、そこをうまく伸ばしていくこと。自分自身の能力を最大限に生かせれば、生まれながらの不平等にうまく折り合い付く。何よりそれが人生を前向きに生きるコツ。
  • 平準化は教育になじまない。全クラス平等にしろという親、平等主義を振りかざす教師のせいで授業がつまらなく勉強する気がなくなってしまうとすれば、かわいそいなのは児童生徒。
  • 教育というのは究極の先行投資。一生懸命に勉強すれば学費を全て国が出すなどの対策。
  • 高校入試時の男女の学力差、女子の方が高い。女子の方が成長スピードが早い。同じ土俵で、戦わせると男子の方が不利になるが、18歳位になると、男子は急激に成長し男女差はなくなる。だから大学入試は横並びのヨーイドンで問題ない。

(第4章)

  • 日本人は、基本的に、縄文時代に日本列島に広く居住していた人たち(縄文人)と、水稲農耕技術とともに、大陸から渡ってきた人たち(弥生人)の混血で、様々なDNAが混ざったハイブリット。純粋な日本人などどこにもいない。
  • 新しい資本主義には、頭脳の多様性が欠かせない。画期的なことやものと言うのは、異質なものが出会い互いにコミュニケートしながら共生し、成長し合うことによってもたらされる。
  • 日本の教育システムは、相変わらず、統制、杓子定規、プログラム、平準化といった本来、教育には、なじまないはずの概念装置が幅をきかせているが、いい加減そこから脱しなければ、真の多様性など実現しない
  • そもそも「生きる」とは「計画通りにやらないこと」である。人生が面白いのは思いもよらないことが起こって、それをきっかけに新しい局面が出現するから。
  • 人生にとって、最も重要なのは、偶然。偶然と出会いと運で決まることがほとんど。あらかじめ立てた計画通りに進む事はないし、計画に縛られると大体のろくな事は無い。
  • AO入試は美辞麗句を並べた茶番だった。2020年度からは「総合型選抜」と名前を変えて、学力検査の上されることに。
  • サイボウズ「100人100通りの働き方ができる会社になったか」。多様性は、意図的に作り出すものではなく、すでに充分存在するものである。会社は、女性を受け入れる側なのだから、一律的な規則で働かせるのをやめるだけ。
  • 長い間、人間は、仕事に自分を合わせることを強いられてきたけど、個人の幸せと言う観点のみならず、社会の発展と言う意味でも、ライオンのように個性に仕事を合わせるスタイルのほうに舵を切るべき。
  • 青野社長「多様性のある組織は、変化に強い。大きな構造変化を察知し、実行に移すのはいつも1部の人間だ。普段から少数意見を尊重する事は、イノベーションにつながると考えている。」
  • パワハラも、セクハラもコミュニケーション能力の欠如が引き起こしている。同じ言葉や態度でも、誰にでも同じように伝わるとは限らない。相手によって文脈や状況が異なる。平等に怒鳴ったり、平等になれなれしくすると言うのは、実はかなり危険な行為。

(第5章)

  • 「不平等な扱い」には目ざとく声をあげるこの国の人々の多くが、手にしている数少ない「平等」である選挙権を簡単に放棄するなぞ。民意を反映させる機会内田放棄することを選んでいるのは大半の有権者
  • オーストラリアはかつて任意投票制だったが1924年に義務投票制へ。90%を下回ったことがない。
  • 権力を持つ者がやりたくて仕方がないことは、権利を持たない人々にとっては不利なことだらけ。
  • 原則平等を旨とする民主主義社会だが、知的レベルの高い人たちの発言と自分の発言との価値は同じではない。
  • 難しい論理は平等の敵になる。ノーベル賞の受賞、発見された学問的重要さより、自分たちの暮らしにどう役立つか、その研究者の人となりなど、わかりやすいことだけが取りだたされる。事実より情緒を重視する風潮。
  • 世の中の大半を占める反知性主義の人々にルサンチマンニーチェ・弱者が強者に対して持つ憤りの感情)をあおる政治。劇場型選挙。
  • 脱「平等バカ」は、自分の頭で考えることから。あくまで事実や正しい情報をもとに、感情や雰囲気では決してなく。
  • 「平等」には「原則平等・機会平等」個々人の能力差や財力差を考慮しない平等と、「結果平等」個々人の資産の平準化を目指す平等がある。新自由主義社会においては前者ばかり強調され富める者は圧倒的に有利に。逆に後者を徹底的に目指せば社会主義国家のような退廃現象を招きかねない。そこのバランスをどう取るのかが政治の役割。
  • 大金持ちの存在は悪くはないが、なるべく貧乏人を減らし中間層を厚くする政策を取らないと日本の未来は暗い。そのためにも「平等」という言葉が持つ二面性について考えて欲しい。