まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「教育論の新常識」松岡亮二

どんな本

いま注目の20のキーワードをわかりやすく解説。データに基づいたまっとうな議論のために。総勢22名の英知を集結。

 

感想

 

表紙

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要約・メモ

 

【1社会経済的地位】

  • 教育格差とは、本人が変えることのできない初期条件によって、学力や学歴など教育成果に差があること。
  • 近年話題の「子どもの貧困」もこの一部。
  • 教育格差を建設的に議論するための4ヶ条:①価値・目標・機能の自覚化、②「同じ扱い」だけでは格差を縮小できない現実、③教育制度の選抜機能、④データを用いて現状と向き合う。
  • 教育改革を推し進めたい政治家、教育行政官、現場の校長や教師にとっては格差が縮小されていない現実は都合悪いかも知れない。しかし、毎日の摂取カロリーと体重を把握せずに体脂肪を減らすことが難しいように、なんとなくやっても結果には結び付かない。
  • まっとうな分析データを取らず「改革」で「何かやってる感」の演出では変化なし。
  • データと研究を充実させ、効果のある教育実践を特定し拡散する仕組みを作ることで、一人でも多くの子どもたちの可能性を具現化するべき。

 

【2子どもの貧困】

  • 日本の相対的貧困率7人に1人の子供
  • 経済、福祉による支援のみならず、教育の役割も欠かせない。
  • 貧困は世代間で連鎖する。貧困家庭の子は貧困に
  • 親の経済的理由により進学できない子供など。
  • 自分1人ではもちろん、家族や身近な大人からは学べない、幅広く学ぶ必要がある。学校教育にはその機会を提供する役割が期待される。
  • 個別最適な学びと、協働的な学びの両立が目指されている。協働的な学びにより、新しい世界や考え方を知ることができる。
  • 貧困を生まない制度や、社会への改善に向けた取り組みも。

 

【3デジタル化】

  • ICT導入で格差拡大。オンライン教育の格差
  • 小中において収入高、三大都市圏居住であると学校内外でオンライン教育を受ける機会が多かった。
  • ICT導入で懸念される二つの教育格差:①家庭の階層や地域によるICT機器の所有や利用環境の格差、②出身階層とICT利用機器との親和性
  • 今回の令和の日本型学校教育への転換が、意図せざる教育格差の拡大に帰結しないように、時には一歩引いた立場から俯瞰する視点が大事。その成果がどのように測定され、その後の人生の歩みとどう結びつき、それがどう保障されていくかは、理念だけでなく現実を見て判断していかなければならない。

 

【4ジェンダー

  • 男子は理系・女子は文系」というジェンダー。理数系は男子の方が能力高い、と思っている小中学校教師は約23%。
  • 数学の試験で良い点を取った女子生徒に、「女の子なのにすごいね」と褒めると「すごいね」だけの時より女子生徒の学習意欲が低くなる傾向あり。それは一度だけの発言でも影響を及ぼす
  • 男児は青、女児はピンク。~くん、~さん。男子に厳しく、女子に優しい。学校や教師が性別で異なる対応を意図しているわけではないが、無意識のステレオタイプを持っているため、性別で分ければ分けるほどジェンダーの影響から逃れにくくなる。子供たち自身もジェンダーを意識し、それに則った言動を行う。
  • 性的マイノリティの子どもたちは直接的に排除を経験しやすい。
  • 社会の中に性別という情報がごく自然な形であふれ、我々は影響を受けている。
  • ジェンダーが存在し教育達成や文理選択、学校生活など教育にも影響大。
  • ①形式的には男女平等であっても、実質的には男女平等が達成されていない前提に立つ必要。
  • ②不要な性別指標(2018医学部の女子差別入試)を学校から取り除く努力が必要。
  • ③性別やジェンダーを意識し、その影響を少しでも抑える必要。
  • ④子どもたち一人ひとりの可能性がジェンダーで制限されないために、できることを中心に捉え、より良い未来を目指して地道な一歩を積み重ねる必要。

 

【6国語教育】

  • 新たに高校のカリキュラムに導入される「論理国語」と「文学国語」。不可思議な造語。
  • 「論理国語」は戦後、最大の国語、教育改革の流れの中から誕生。高校2、3年生配当の新科目。
  • 導入の背景、PISAショック(世界の読解力で日本が2003年に大きく順位を下げた)で読解力低下の危機感。情報処理能力の必要性。さらにAIの登場で読解力の必要性高まり。
  • しかしPISAは文学的文章も多く出題、そもそも15歳用の調査のため、PISAの結果に振り回されて論理国語を導入するのは無意味。
  • 従来の国語の枠組みに新たなドリルが加えられる事に反対はしないが、もっと早い段階から少しずつ導入されるべき。より、複雑な文章を読み解くための準備運動として。論理と文学とを分けるような非論理的な改革は悲惨な結果に。文学国語の科目の中でこそ、親に実用的な言語学習が可能。

 

【7英語入試改革】

  • ぺらぺら信仰が喋れない日本人をつくる。明治以来百年以上かけて人類史上稀な壮大な失敗の繰り返し。
  • 言葉なんて誰でも使える、話し言葉は簡単、という考えが間違いの第一歩。この短絡的発想こそ英語学習の黒歴史築いてきた。
  • ぺらぺらへの過度な憧れや反転した軽視はいずれも習得の妨げ。
  • 日本語の呪縛が強力。英語学習を通していったい何がしたいのか考えてみるべき。その先の大事さを強調したい。自己完結なものでなく英語を通して知識を得たり人と交流したりという展開を。
  • 自分が興味を持てる分野に英語をからめればいい。英語がリアルに。実用などと抽象的な目標でなく。
  • グローバル化で英語使用ニーズが増えるという説明はあまりに単純。近年の英語教育改革におけるグローバル化理解はきわめてお粗末。無根拠に決めつけ断行している。小学校への英語教育しかり、大学の英語入試改革しかり。
  • 政策議論では秘教めいた議論を排し、現実のデータ・理論に基づき地に足の着いた議論が必要。

 

【9共通テスト】

  • 入試改革「三本の柱」の挫折と三つの軽視。①共通テストにおける英語民間試験導入の延期、②共通テストにおける国語・数学での記述式問題の導入見送り、③主体性評価のための活動記録を入試に活用すべく導入予定だったシステムJapan e-portfolioの運営許可取消し。

 

【11EdTech】

  • GIGAスクールに子どもたちの未来は託せるか。背後には国家戦略としてのSociety5.0構想。それは何をねらいとしているか。子どもと教育をどこに連れて行こうとするのか。
  • ドローンによる配送、自動運転による運輸、リモートによる生産管理や医療サービスの提供等、テクノロジーによる解決を想定。だが貧困や格差、差別や偏見、失業や非正規雇用などの社会的課題が自動的に解決されたりはしない。その意味でいささか怪しげな概念。
  • Society5.0がもたらすのは、教育の「公共性の解体」であり「ICT化=学校制度の枠組みの解体」であり教育の「市場化」。
  • 学びの時代においては能動的な学習主体(アクティブラーナー)が自らの学びをデザインする、といった甘美な装飾でカモフラージュされているが、とどのつまりは、従来の学校教育の枠を取っ払ったうえで、子どもたちの学びを徹底した能力主義に基づいて個別化し、自己責任化していくことを指すのではないか。
  • 全ての子どもが簡単にアクティブラーナーになれるわけではない。とすればSociety5.0型の学校からは、取りこぼされる子どもも多数生まれる。結果、危うくされるのは、公教育の本質的な役割であり、教育の機会均等や子どもたちの発達権・学習権の保障であり教育の公共性を担保する学校教育の枠組みなのである。
  • Society5.0型の教育においては、自立性や自由の美名と引き換えに、実際には学びは究極的なかたちで「自己責任化」される。格差はこれまで以上に拡大する。
  • そもそも学習意欲がわかず学習プログラムに取り組めないなど、結局は質の高くない学びに終始してしまう可能性も少なくない。


【12九月入学論】

  • コロナがもたらした混乱状況のなかで突如出現し、消えていった九月入学の議論は、社会を科学的に捉える政策議論ができないゆえに「教育世論に教育政策が振り回された」最たる例となった。
  • 今回の事例を教訓として、実証的な情報を踏まえ、政治家のレガシー作りに惑わされない政策立案が、ウィズコロナ時代の教育格差に立ち向かう今こそ求められる。

 

【15教員免許更新制度改革】

  • 教員免許に10年の期限をつける制度、2009年施行。その抜本的見直しスタート。
  • 運転免許更新のイメージ。教員として必要な能力の保持、最新の知識技能を身に付けておくこと。
  • 受講費用は、教員の自己負担、平均30,000円程度の講習費用、加えて、交通費と宿泊費が必要。
  • 問題点:①不適格教員は10年待たずすぐ対処すべき点ー、②技能の測定であり資質の判断はできない、③不適格教員を判断する指標が作りにくい。
  • 教員の質を上げるには待遇を上げること、それが世界で一般的な教育政策。教員給与の低下は日本と少数国のみ。
  • もしも私たちがより良い教員を学校に確保したい一方的に教員への要求を上げ続けるだけでなく、諸外国と同様その要求にふさわしい待遇や労働環境を準備する政策がまずは必要。

 

【16中央教育審議会

  • 思いつきの教育政策論議、政策理念を膨れ上がらせた文科省の特徴の原因。
  • 政府の政策方針、「霞ヶ関文学」と揶揄。学問的・実証的根拠のたい抽象的理念によるもの。

 

【17EBPM(エビデンスに基づく政策立案)】

  • データと研究に基づかない政策では教育格差が変わることはない。日本では学校現場の視察や聞きかじった話に基づいた「これからの教育」論が散見。
  • 教育政策は結果が出るまで常にタイムラグ。失敗しても責任追及できない。
  • 日本の教育政策には過去からの学びがない。検証のための客観的データ取得していない。改革のやりっぱなしへ。
  • 日本は世界的にみて「凡庸な教育格差社会」。
  • 米国社会は肌の色と社会経済的地位が多くか異なる。