まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「いいね!ボタンを押す前に」

どんな本

ジャーナリスト、研究者、エッセイストらが、今のネット空間を徹底解説。炎上しない、人を傷つけない、無意識に差別しないため、どんな点に気をつければいいのか、SNSユーザーの基礎知識が満載。

 

感想

ジェンダーという独自の切り口からネット社会・民主主義のあり方を鋭く考察した良著。とくに後半部の強い警鐘は必読。他人へのいいねボタンを安易に押す前に、アルゴリズムの中で踊らされている自分に気付いてみませんか。

 

表紙

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要約・メモ

(私たちはデジタル原始人)

  • インターネットが広く使われるようになってから、まだたったの30年。現在主流のSNSの誕生や、スマホの普及からは、20年も経っていない。私たちは、今、デジタル人類史の旧石器時代を生きている。
  • 原始人たる私たちは、ある貴重な特権を有す。無秩序の中にある時こそ、新たな秩序を生み出すチャンス。
  • 誰もがメディアの時代。目の前の平凡な若者が、自分の数万倍の影響力を持っていることもあり得る。
  • デジタル化で世界はつながった、だけど、私たちはどんどん分断されている。見たいもの、聞きたい話だけ、興味のないことには触れない。
  • つながる技術で、誰とでもつながりたいのではない。より、狭くより居心地の良い村を自分で選べる自由、それが欲しかったのだ。
  • 日本のメディアでは、ジェンダー平等の達成はなおも、遥か遠い。デジタルテクノロジーの世界では、さらに昔に戻ったかのように、全世界的に男性による独占状態。
  • これから先の100年を作るのはニュースを賑わす天才奇才ではない。普通の人たちの日常の営みこそが巨人の背丈を伸ばす。

 

(①眞子さまはなぜここまでバッシングされたのか)

  • 繰り返されてきた女性皇族へのバッシング。
  • 病気で公務ができない雅子様美智子様の対比。
  • 雅子様が皇室へ入られた時期、女性の生き方が多様化する時期と重なった。
  • 病を得たことで皇室が「幸せな家族像」だけでは済まないと分かった。
  • 女性皇族は、どうしてもその時代を生きる女性たちの自己投影の対象となりがち。
  • 眞子さん小室さんの結婚は、家族観・結婚感が大きく変化する時代の出来事、加えて、ニュースの読まれ方が大きく変わった時期。
  • ネットで皇室に関心のなかった人にまで読まれるようになり読者層が拡大。
  • SNSでの個人に対する誹謗中傷、テラスハウス出演の木村花さん。
  • アテンションエコノミーの問題。見たいものしか見ない状態→アルゴリズムによってコントロール、フィルターバブル状態。制限された情報空間の中、同じ価値観の人の意見ばかり反響し合うエコーチェンバーと言う現象。
  • 開かれた皇室は現実的か?よく比較されるのが、英国王室の広報戦略、インスタSNSなど。The royal familyフォロワー1000万人以上。

 

(②炎上する萌えキャラ/美少女キャラを考える)

  • 温泉むすめ、2020年には日本を代表するコンテンツとして仲間入り。設定や表現に疑問を持つ声がSNSで拡散し炎上。
  • 外国人の目に映るニッポンと美少女たち。児童ポルノとして世界から非難。
  • キャサリンマッキノン:ジェンダーは、社会的構造物である。女性の性的客体化は女性が、男性の欲望充足や支配のために用いられること、男性の支配と女性の服従をエロティックなものとして描き、享受することに見ることができる。
  • 女性を客体化するイメージとは:①身体としての女性、②動物としての女性、③代替物としての女性、④子供としての女性、⑤モノとしての女性、⑥死体としての女性、⑦成人女性としての少女。
  • 人々が民主主義と人権のために勝ち取ってきた「表現の自由」。これに反対する人は誰もいないが、どのような原則や規範もなく、ひたすら追求、達成されるべきものであろうか。
  • 表現の自由が目的化されるのではなく、人権(社会的弱者)のために制限され得ることが示されている。権力を持つ人々や、マスの人々が他者を苦しめる表現を行うこと、擁護する事は、人権侵害であり、暴力に他ならない。

 

(③なぜSNSでは冷静に対話できないのか)

  • 対立構造の類型化:①炎上型(インフルエンサーの発言)、②意見対立型(パヨク・ネトウヨ)、③複数争点型(母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ)
  • SNSの言論空間は、議論に意欲のあるレスラーばかりがいて、リングのないプロレスの試合のような状態。覆面をしたユーザ全員が、だだっ広い空間で、相手が誰なのかも知らず、むやみやたらに攻撃をしかけて場外乱闘している状態
  • 解決に向けた取り組み:①デジタルマーケット法、2022〜、②デジタルサービス法、2024〜
  • デジタルプラットフォームは、私たちの日常を取り巻く生態系とも言える規模で展開、その生態系の汚染は、私たちの精神や肉体に悪影響を及ぼす危険。こうした危険性に気付いてしまったならば、人権と民主主義、デジタルウェルビーイングの向上に向けた試みに、私たちは真剣に取り組む必要がある

 

(④なぜジェンダーでは間違いが起きやすいのか)

  • 働く女性を応援するはずが、逆のメッセージになった広島県「働く女性応援、よくばり、ハンドブック」。
  • 原因、製作者の無意識バイアスが表現に出てくる。
  • オムツ・ムーニーのプロモーション動画。完全にワンオペ育児のお母さんが登場。耐える事を推奨するかの批判。
  • 多くのジェンダー炎上事例に共通するのは、発信者に悪意がないこと。


スマホ自体の公共の危機)

  • 20世紀の哲学者・ハンナ・アーレント、公共的領域に必須な価値「複数性plurality」という概念。全体主義の対抗概念として強調。
  • 自分たちとは異なる思想や価値観をもった他者の存在を認め、共に生きることこそが、人間の人間たるゆえんであり、そのような人間的な生き方を可能にする複数性のある世界にこそ、公共の空間は成立し、民主的合意形成に至る活動が可能になる。
  • 逆に複数性のない社会は、個別バラバラの人間が孤立し、共に世界を作ろうとする民主主義が放棄され、共通世界を見出せないまま、他者の存在しない全体主義へ向かうと警告。
  • 今現実はむしろ、社会が細分化され、分断され、世界中で意見の分極化も問題。
  • 公共的領域が分断、萎縮して世界がただ1つの側面を見られ、ただ1つの観点で示されるような、仲間内の小宇宙の複製に向かいつつあるのではないか。そこでは、イノベーションは現状の強化のために利用され、ジェンダーやマイノリティーなど、人間の豊かな複数性も省略される傾向が強まってはいないか。
  • デジタル化の普及とともに、社会のあらゆる局面に市場原理が貫徹するテクノ資本主義が蔓延し、アルゴリズム専制によって、似たもの同士の糾合が強化されてはいないか。結局、21世紀は、声を上げにくいマイノリティーにとって、ますます生きにくい時代へと向かっているのではないか
  • アーレントが論じた、公共的領域と私的領域の補完的関係は、ネット社会が進む今、さらに大きく崩しつつあるのではないか。
  • ソーシャルメディア上では、否定的な感情が優先的に出回るということも分かっている。一方で、ポジティブな感情は共有されにくい
  • マイクロターゲッティング:何かのターゲットの対象になると、その何かに関する自己認識を変え、そのせいで何かに反応しやすくなる。一度クリックすると関連広告が次々と現れる。
  • まずは誇張や意外性、いわゆるフェイクニュースやネガティブな感情で客寄せ。アテンションエコノミーの最初の罠。テクノ資本主義の論理では、フェイクやヒステリックがあった方が良い。
  • 何度も同じプラットフォームに戻って来させる中毒症状という二つ目の罠。
  • パティノの言葉で説明:アテンションエコノミーは、情報と民主主義の面で疲弊した社会を作り出し、デジタル信号によって哲学的な考察を封印する。
  • Facebookの若年層戦略も、デジタル美容文化の人気も、いずれも「やせ願望」や「白くて、美しい肌」と言う、長く女性たちが目指すように仕向けられ、抱くように開拓された欲望を巧妙に利用したものだ。こうして今、デジタル空間ではルッキズムの強化や、画一的な「女性らしさの強要」の再来が懸念されている。20世紀以降、女性や性的マイノリティーたちが戦い、追い求めてきた人間の声の見方の多様性、人間の性的指向の多様性、社会的なジェンダーの見直しといったジェンダーセクシャリティをめぐる豊かな複数性は、アテンションエコノミーのもとで疲弊し、痩せ細り、力を失っていくのではないか。
  • アテンションエコノミーは、注目の数が多ければ多いほど、そして滞留時間が長ければ長いほど「良い」と言う「価値観」を持つ世界を築きあげた。それは、デジタルトランスフォーメーション、起業、ギグエコノミーと言う21世紀の新奇性ある言葉に包まれながらも、資本主義の原初的価値である「多数が勝者」と言う競争原理を、「注目」と言う資源に返しながら復活させ、社会を勝者と敗者とに仕分けしながらネットのユーザたちを終わりなき欲望と好奇心の世界に引きずり込む。また、数字が見えること、そして数値を見せられる事は、グローバル化し、細分化して見通しの効かなくなった現代、ユーザたちに「あなたたちは多数派の側ですよ」と言う安心感を与える。企業や政府の側も同様に、社会の全容が見えずらい状況で、多数決と言うわかりやすい仕組みで世論を味方につけられるアテンションエコノミーの論理を歓迎し、進んでそこから正当性を調達するのである。

 

【日本の課題-問題、意識、批判意識の欠如】

  • アーレント:理想の人間的人間、社会たる所以は、それぞれが主体的にモノを考え、異なる他者に対して、その考えを表現し、他者同士が相互の複数性を意識させる活動に求められる。そのために複数の考えが交わる公共的領域の確保こそ、人間的社会には不可欠であり、この領域が確立することを通して、初めて自由で民主的な社会が実現する全体主義を嫌悪し、思考停止した人間の生き方を凡庸な悪と呼んで指弾。
  • ところが今、言論や表現の世界の中心となっているネットでは、他者を意識する人間の活動は、いつの間にか、薄暗がりの匿名性によって、感情的、攻撃的な非合理性に摂関されてしまうかあるいは、その非合理性を恐れて、むしろ表現活動を抑制せざるをえない状況が次々と報告。
  • オンラインハラスメント、500人の調査結果、1/4にとどまった。認識自体が低いのではないかと言う懸念。
  • 政府主導のデジタルトランスフォーメーション、圧倒的に男性優位の環境で普及が進む。
  • ロボットやAIなど最新のテクノロジーに対して、アメリカやヨーロッパの多くの国は、否定的な意見が多い。アジアや日本とは逆
  • デジタル情報化は、スマホを通して、私たちの身体の延長になりつつある。今、利用を良き生活のためにどう役立てていくのかについて主体的に考えていく必要がある。
  • まずは、デジタル空間において、今実際に誰によって何が行われているのかについて仕組みを学ぶ必要がある。
  • 罠のからくり、そして問題の仕組みを学べば、対策も立てられる。批判的な情報リテラシー、デジタルリテラシー、学習の効果的な開発、実践、普及、が今問われている。