どんな本
規制緩和政策の下で店舗面積や営業時間が自由化され、巨大な総合スーパーや専門量販店が都市郊外に次々進出、旧来の商店街の衰退が著しい日本。これに対し米国では、大型店急増への疑問が高まり、地域社会へその功罪をめぐる論争、自治体による規制などが活発化している。両国の実情を通して、これからのまちづくりを考える。
感想
健全な地域デモクラシーのもと、地域社会に帰属する自分たちが、徹底した自治意識を持つことの大切さにあらためて気付かされた。地域間競争から地域間連携への逆転の発想は目から鱗。
表紙
要約・メモ
- 序章・大型店とその環境
- 第1章・アメリカの大型店紛争
- 第2章・多様化する立地規制
- 第3章・大型店は地域社会にプラスか
- 第4章・規制への模索
- 終章・大型店と地域デモクラシー
- 日本でも地方自治体レベルで、条例を制定して大型店の立地を規制・誘導する動きが広がり始めた。
- 時代の変化を意識し経済産業省は「まちづくり三法」を見直す動き。
- 1990年代以降、欧米諸国・都市は環境とまちづくりの必要から大型店の立地規制を強化。
- 北欧諸国では、大型店の立地を一時的に停止するモラトリアム。国全体で売り場面積を抑制。
- 英国では、大型店はまず、中心市街地に進出場所を探せ、という施策を徹底。
- 米国では、大型店や全国チェーン店の進出を制限している自治体もある。
- 目的はまちづくりだが、そこに至る道は商業活動に対する需給調整。
- いまの日本で規制が必要であるという議論を展開しようものなら、違法な規制であると非難される。
- 大型店規制に反対する理由として「都市間競争」を礼賛する理屈がある。
- 自治体政府は企業誘致などに奔走し、自ら税財政基盤を確立しなければならないという主張。
- しかし、大型店に関して都市間競争が望ましいまちづくりにつながるかは、1990年代以降の現実が語るようかなり否定的。
- 中心市街地の疲弊と、焼畑商業による大型空き店舗の発生。
- 都市間競争も開発と計画の逆転も、しょせんは成長主義・拡大主義の産物。
- 虎視眈々と他人から富を奪取するチャンスをねらっている人間を尊敬する社会より、相互に分配し合うことに重きを置く社会のほうが心豊か。
- ひとり勝ちを目指すより、協調することのほうが全体の向上に結びつくと考えるほうがはるかに健全。
- 資本と人口のゼロ成長状態は、人間的な状態の停滞を意味するものではなく、定常状態の社会にあってもあらゆる知的文化、社会的進歩の可能性の余地がある、とミルは考えていた。
- ケインズも成長の行き着く先として「豊かな社会での停滞」について考えていたが、その到達したところはミルとあまり違わない。人間は物理的な要求よりは、精神的、質的な生活の充実を希求するようになると考えていた。
- 競争から連携へ。都市間競争から都市間連携の推奨へ。逆転の発想で。
- 条例を制定し、広域圏域で大型店の秩序ある出店を実現しようとすることは、都市間調整の努力。
- 税の再分配制度は、オルタナティブな(既存のものと代わるべき)地域経済の姿をどう描くかに関わる挑戦である。
- 都市間競争は、他者に対する不信を前提としており、問題解決を市場に委ねる考え方。
- 都市間連携は、隣人に対する信頼に基盤を置いている。人間の英知を信じる理想主義が生きている。
- 地域デモクラシーとは、地域の問題を、あるいはまちの将来の姿を、そこに暮らし帰属する人々が議論し、決定権を持って選択すること。
- まちづくりなど、その地域社会にとって最も基本的な構造を自己決定する能力を削がれ、なにか外からの巨大なパワーに地域資源の管理の一部、あるいは全部を支配されることになれば、地域デモクラシーの危機である。
- 地域循環型経済を希求するためにも、オルタナティブな地域商業構造を育成することが大切である。
- 域外に本社があり、その本社にいるバイヤーに地域の商業市場を遠隔支配されるようになると、地域商業は地元の農業や中小製造業、地域金融機関、物流業者から遊離しはじめる。
- 域内循環を通じて地域経済の拡大再生産を目指す道が閉ざされる。地域経済資源の自己管理が危うくなる。
- 地域経済の決定権がその土地の運命に関心の薄い外部の資本に牛耳られているような経済構造は、地域デモクラシーの健全な姿とはい言い難い。
- まちづくりで問われていることは、この十余年、大型店問題に関して日本は、世界の先進諸国・都市が目指してきた方向とは、ひたすらに逆走してきたという事実。その認識からスタートしなければ、効果的なまちづくりは始まらない。
- 大型店紛争のグローバル化。それに対抗するためには、地域社会がしっかりとした自治意識を持つことが大切。
- 上からの号令に逆らうこともなく、粛々と平成の市町村合併に向かい、地域社会に対する市民の帰属意識が希薄になることに無頓着な日本の場合、自治思想から得られる教訓は大きい。