どんな本
人生の最後に食べたいおやつは何ですか。若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。2020年本屋大賞第2位。
感想
「死」と真正面から向き合うこと、それはある意味「哲学」なのかも知れない。本著は文学・フィクションという衣を纏った哲学書である。向き合う死が、次々と人生や人間の本質を炙り出していく。著者の卓越した比喩表現も才能豊かでたまらない。
表紙
要約・メモ
- 昨日まで目にしていた人工的な景色とあまりに違うので、まだ心のピントがうまく合わない。
- 空気がおいしい。おいしすぎて、おかわりするみたいに、二回、三回と繰り返した。
- おやつという言葉の響きには、独特のふくよかさというか、温もりがある。
- 「気持ちいい」声に出すと、ますます気持ちよさが発酵する。
- いきなりドアの向こうから、白いかたまりが飛んできた。白いかたまりはウサギではなく犬だった。
- 神さまの母乳、という表現はしっくりくる。
- マスターの所作には無駄がなく、一連の美しい創作ダンスを見ているようだった。
- 六花がものすごい勢いで私の世界を開拓する。
- 雪の結晶も、手のひらにのせた瞬間、姿を消す。豆花も同じだった。
- 体の外側を覆う薄皮が、ぺろんとそのまま剥けたみたいに、体が軽くなっている。
- かわいい、という言葉を、百個並べても、千個並べても、一万個並べても、私の中に沸き起こる「かわいい」の感情には追いつけない。
- 妄想がビッグバンみたいに拡張する。
- ゆるく弧を描く海岸は、神さまの両腕ですっぽりと抱擁されているようだ。
- 気がつくと、私はライオンが獲物の内臓にむしゃぶりつくみたいに、タヒチ君の唇に吸いついていた。
- ふわりと、口の中に甘いそよ風が吹き抜けた。
- アコースティックギターから最後の音を解き放つと、世界は虹色の静寂に包まれた。
- 色紙の中に、私と六花が永遠に閉じ込められるというのは嬉しい発想だった。
- 目を閉じると、そよ風が、私に毛布をかけるような優しさで吹いてくる。
- おやつを前にすると、誰もが皆、子どもに戻る。
- 空気がおいしい。空気だったら、お粥と違って、十杯でも二十杯でも、存分におかわりすることができる。
- 私は、しばらくの間、仔猫のようにぴったりとくっついて並ぶ二色の牡丹餅を見続けた。
- 最後まで売れ残っていた福袋を買ったら、思いのほか自分好みの物がいっぱい入っていて得した気分だ。
- 感謝の気持ちが、私の中で春の嵐のように吹き荒れていた。
- いきなりマフラーが風に飛ばされた。まるで、マフラー自体が踊ってるみたいだった。