どんな本
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。
感想
2021本屋大賞との触れ込みとタイトルが気になり書店で手に取った一冊。読み始めは盛り上がりもなく不安に駆られたが、終盤はさすがの展開と伏線回収に思わず涙。虐待、ネグレクト、人権など深い社会テーマが根底に。私にはクジラたちの声が聞こえているだろうか。
表紙
要約・メモ
(1 最果ての街に雨)
- 風俗やってたの?
- アンさんはもういない。
- あの全身の痣。間違いなくあの子どもは虐待を受けている。
(2 夜空に溶ける声)
- コンドウマート。
- なんだ、村中か。
- キナコってよんでね。次はあんたの名前ね。ムシ。どういうこと。
- わたしね、寂しくて死にそうなときに聴く声があるんだ。そう、クジラの声。
- よろしく、52。
(3 ドアの向こうの世界)
- はい、再会にカンパーイ。紹介するね、このひと岡田安吾さん。
- ほら、食べて。あーん、そう。ほら、美味しいでしょ。
- 何でここまでしてくれるんですか?可愛いから。え、は?
- 全部出しな。全部ぼくが聞いてるから。ぼくに聞こえているから。
(4 再会と懺悔)
- 私、息子なんていないけど。
- やっぱ返すとかやめてね。マジで迷惑。
- 52って貴瑚に似てるよね。
- 愛と書いていとしと読ますのよ。皮肉なもんよな。愛なんか語れるような両親じゃなかったけん。
- わたしは、52って呼ぶから。
(5 償えない過ち)
- アンさんと暮らしなさいよ。バカ言わないで。
- 新名主税(ちから)に出会ったのは、そんな夏から二年が過ぎてのことだった。
- まるで、おもちゃを欲しがる子どもの言葉だ。
- 大事だよ、キナコのしあわせをずっと祈るくらいにはね。
- 主税の勧めるまま、主税と婚約者の住むマンションの近くにある部屋に越した。
(6 届かぬ声の行方)
- アンさんね、、トランスジェンダーだった。
- あの新名という男は、キナコを泣かせるかも知れない。
- アンさんは苦しんでいた。
- 息をしな。息を止めてる。だめだよ。
(7 最果てでの出会い)
- 三島さんが子どもを誘拐したってことになってる。ははあ、そうきたか。
- うちの孫を返してくれんか!
- キナコ。たすけて。
- ねえ、わたしと一緒に暮らそう!
- わたしと帰ろう、いとし。
(8 52ヘルツのクジラたち)
- わたしを見つけてくれてありがとう、いとし。
- キナコに会えてよかった。
- どうか、その声が誰かに届きますように。優しく受け止めてもらえますように。