まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「13歳から考える畜産」関根佳恵

どんな本

持続可能な暮らしを実現する畜産の未来を考える。畜産を通して、食・環境・命のつながりを学ぶ、総合学習・探究学習にぴったりの一冊。輸入飼料の価格高騰による経営難、人手不足、鳥インフルエンザなどの伝染病・・・私たちの暮らしを支える畜産の現場でいま、何が起きているのでしょうか。
気候変動・アニマルウェルフェア(動物福祉)・オーガニックなどのキーワードで、〈持続可能な畜産〉を探ります。

 

感想

農と食の政治経済学者による、畜産を通した食・環境・命のつながりを学べる一冊。大切にしたいのは「ワンヘルス」「動物福祉」「小さな畜産への転換」という考え方。国内外の取り組み事例も多数掲載。13歳からは勿論、大人もぜひ読んでおきたい良著。
#13歳から考える畜産 #関根佳恵

 

表紙

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要約・メモ

(はじめに)

  • 食品の中で、穀物に次いで2番目に多くのエネルギーを供給
  • 近年さまざまな課題に直面、それらを解決し、サステナブルな畜産を実現するためには何が必要か
  • 畜産の歴史と近代化による変化を振り返り、日本と海外の様々な実践のなかに解決策を見出す

 

(第 1 章  私たちの暮らしを支える畜産)

  • 家畜には食用になるもの、衣類や生活雑貨になるもんだけではなく、農地を耕したり、物を運ぶための動力として使われたりするものも。
  • ペットとして飼われているものや、医薬品・化粧品などの開発のための動物実験に使われるもの
  • 神社等の伝統的な神事で使われるもの、闘牛や競馬に出場するものも
  • 国産と表示されていても、家畜が食べるエサの多くが輸入されている
  • 肉は、海外から輸入されているものが多い、とくに牛肉は半分以上が外国産
  • 鶏卵は、90%以上が国内
  • なぜ畜産は危機に:コロナ禍により需要が落ち込み、ロシアウクライナ戦争や円安の進行で飼料などが高騰
  • 子牛の販売価格も下落、生産者にとって痛手
  • このままでは日本から多くの畜産経営が姿を消すことに


(第 2 章  世界と日本の畜産)

  • 江戸時代、徳川綱吉が生類憐みの令を発布、動物愛護と殺生の禁止
  • 公に肉食は制限されたが、猪肉をぼたん、鹿肉をもみじ、馬肉をさくら、鶏肉をかしわ、など植物の名前で呼びひそかに味わっていた
  • 19世紀頃には農具のすきの上に鴨や鯨などの肉や魚を載せて焼いて食べたことから、すき焼きの語源になった
  • 明治時代、文明開花のもとで肉食が解禁、食用の畜産が本格的に開始
  • 庶民が日常的に食肉を購入できるようになるのは、第二次世界大戦後のこと
  • 学校給食がはじまり、次第に食生活は欧米化、和食からパンと卵、乳製品、肉類の割合が増加


(第 3 章  いま畜産が直面する課題(1)経営難と環境問題)

  • 畜産の工業化:機械化が進み、新技術が導入、工業製品のように細かく管理
  • 人手不足と過疎化:政府の補助金、大規模で企業的な畜産経営に支給、小規模な家族経営の畜産支援は手薄に
  • 世界の食糧危機:配合飼料に依存した工業的畜産は見直す必要
  • 畜産公害と環境問題:


(第 4 章  いま畜産が直面する課題(2)家畜と人間の健康)

  • 伝染病:家畜・動物から人へ
  • 2010年の口蹄疫、292の農場で21万頭の牛が殺処分。2023年、51事例の高原病性鳥インフルエンザ、932万羽が殺処分。
  • 食品安全と健康:O157、サルモネラ菌、カンピロバクターウイルス、トキソプラズマ、ダイオキシン類、残留農薬など。
  • 国連や学術会でワンヘルスという考え方。家畜・動物の健康、人間の健康、環境の健全性は一体であるということ。
  • 動物福祉:アニマルウェルフェア。動物が生きていくために必要な要求を満たし、心地よく健康に暮らすための考え方。
  • 産業動物は最終的に人間が命を奪って食料にする。せめて生きている間は健康で幸福に。しかし畜産の工業化により、多くの家畜が自由な行動できない状態で飼育。痛みや苦しみをともなう方法も。
  • 動物福祉における5つの自由:①空腹・渇きからの自由、②不快感からの自由、③痛み、けが、病気からの自由、④正常行動をする自由、⑤恐怖・苦悩からの自由
  • 工業化された食料システムにおける力関係:世界レベルでは、上位4社の市場占有率、種子で56.6%、農薬で63.5%。市場が寡占化すると、アグリビジネスが価格の交渉や決定で有利な立場に。適正な競争が行われなくなる可能性。グローバルノース、グローバルサウス。

 

(第 5 章    持続可能な畜産への転換)

  • 工業化した畜産からの転換を:国連は、大規模な工業的畜産を規制し、小規模な家族経営の畜産や伝統的な畜産を支援する必要性を訴え。
  • 小規模で分散した畜産へ:農場全体の資産価値を抑え、後継者に引き継ぐハードル下がる。経営規模を小さく抑え、副業で取り組むことも可能に。
  • 大きな酪農より効率的:酪農においては大規模と小規模において所得の差なし。
  • 大きな畜産から小さな畜産への転換:隠れた費用を見える化し、消費行動に変化を。
  • 有畜複合で循環を取り戻す:畜産は農耕と分離されてきたが、連携できていれば、農業の副産物は家畜の飼料になるし、物質は循環。
  • 日本の放牧、復活へ:草原をイメージするが、日本で国土の7割を占める山地でも放牧は行われている。中山間地域の耕作放棄地に家畜を放牧する取り組みも。
  • 草地の土壌が健全な状態であれば、健康な草が育ち、健康な草を食べた家畜も健康になり、その家畜から畜産物の恵みをいただく人間もまた健康になる。(ワンヘルス)
  • 有機畜産という選択:環境への負荷をできる限り少なくして生産された飼料を与え、抗生物質などの動物用医薬品の使用を避けることを基本として、動物福祉(アニマルウェルフェア)にも配慮して家畜を飼育すること。しかし、日本ではまだ限定的。
  • 有機畜産物の消費拡大に向けて:価格が高いというイメージ、しかし牛肉の枝肉価格と比較してみると高級な和牛より価格は低い。近年、日本では小中学校の学校給食に有機農産物・食品を取り入れる自治体が増えている。(農水省「有機農産をめぐる事情」2024年5月)
  • 地球と人間にとって健康的な食事(プラネタリーヘルスダイエット):持続可能な畜産への転換のために。まず、私たちの食卓を彩っている畜産物が、命ある生き物からの恵みであることに感謝したうえで、それはどこから来たのか、どのように生産されたのか、生産者の方々にはどのような苦労があるのか、環境負荷にはどのようなものがあるのか、動物福祉(アニマルウェルフェア)の状況はどうなっているのか、などに関心を寄せることが重要。
  • 持続可能な食のコミュニティをつくる:カルフォルニア大学・グリースマン名誉教授、持続可能な畜産への転換として、すべての肉牛や乳牛を放牧し、すべての豚に食品や農作物をリサイクルした飼料が与えられるべき。
  • 日々の生活のなかで、食事はバラバラの個人的な体験として認識されがち。消費者と農業生産者の関係を再構築し、食の選択を通じて社会を変えることにつながる。地域に根差した小規模な食品加工や流通。販売を支えることは、私たちがどのような食料システムを支持するのか、どのような未来社会を選ぶのかという問題と直結する。


(第 6 章    新しい畜産にむけて)

  • マイペース酪農(土・草・牛の循環と暮らしを大切にする):牛を放牧することを基本として、農場の外で生産・製造された飼料や化学肥料等への依存を減らし、土と草と牛の間の循環を重視する、持続可能な酪農のこと。まさにワンヘルスの実践。
  • 放牧のオーガニックビーフ(北海道で始まった有機畜産の挑戦):北海道・八雲牧場、1994年に飼育している牛に与える牧草や飼料を牧場内で全て自給し、2003年には無農薬、2005年には無化学肥料で栽培するように。2009年に有機畜産物JAS認証取得。
  • 消費者とつながる山地酪農(丈夫な牛たちが広い牧場でのびのび暮らす):日本の国土の75%を占める山地で、牛を放牧する山地酪農の実践。365にち、広い放牧地で過ごし、雨や雪が降っても、台風が来ても外で過ごす。自然交配し、出産も基本的に放牧地で行われる。
  • 高知県南国市、斉藤牧場の山地酪農牛乳、日本フードシフトの2025年フードシフトセレクションで最優秀賞に。
  • 生活協同組合による福祉型畜産(障害のある人が関わる養豚と食肉加工):生協は、農業生産と食料消費をつなぐ存在。全国的にめずらしい取り組み、あいコープみやぎ、2014年、福祉型畜産で養豚を開始。生後4ヶ月から遺伝子組み換え作物を含まない自然配合飼料を与え、安全性を大切にして予防や成長促進を目的とする抗生物質は与えていない。障害のある方も一緒に働くミートセンター。
  • 地元の米で育てる平飼い卵(鶏を自然に近いかたちで飼う):日本の畜産、家畜の飼料の多くが輸入。飼料の自給率低いため災害や戦争・紛争等、日本円の価値が下がると価格が上がる懸念。自給率上げる必要。
  • 宮城県北部・栗駒市の農業組合法人栗駒高原。2011年をきっかけに地元産の飼料用米を中心に自家配合した飼料に切り替え。アニマルウェルフェア向上も。
  • イタリアのスローな酪農(伝統品種と環境を守る):地域の伝統的な食文化を大切にする国。近年、生物多様性や環境保護、動物福祉等も重視。
  • チーズの王様、パルミジャーノ・レッジャーノ、約3000戸の酪農家が地元産の牧草で育てた牛の生乳でチーズ加工。
  • フランスの小さな酪農(あえて搾らない酪農へ):フランス、ヨーロッパを代表する農業大国。アルプス山脈やピレネー山脈等の山岳地帯で酪農や畜産が発展。46種類のチーズが伝統。
  • EU加盟国では持続可能な農業への移行が課題。①フルタイムの農業者1人当たりの牛の飼養頭数を50頭に制限。②牛の搾乳を1日2回に制限し、搾乳ロボットの使用禁止。③1つの農場で搾乳できる生乳量を最大年間120万トンに制限。④牧草地で用いる化学肥料の使用量を20%削減、温室効果ガスを減らし大気と水の汚染防止。⑤チーズ工房・製造所の規模拡大を抑えるため合併を制限。

 

(おわりに)

  • サステナブルな未来の畜産について考えてきた。共通しているのは「小さな畜産への転換」が重要だということ。
  • 近代化のなかで生産効率を追い求めて工業化し、課題に直面。いま求められていることは、畜産を自然の生態系の循環のなかに戻すこと。
  • 畜産課が経営を続けるのに十分な所得を得ることと、誰もが所得水準に関係なくサステナブルな畜産物を得られることは両立できるはず。
  • EUでは、サステナブルな農業や畜産を営む生産者に手厚い所得保障を行い、間接的に農産物・畜産物の価格を抑えている。フランスでは、食料社会保障制度(SSA)を導入する自治体が増加。一定額の食料を購入できる保険証を所得にかかわりなく全住民に支給する制度で、格差の是正につながると期待。