まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「みんな違ってみんないいのか?」山口裕之

どんな本

科学哲学者の著者による、考え方の異なる者同士がともに生きていくために、「正しさ」とは何か、それはどのように作られていくものか、を徹底的に考える一冊。

 

感想

ここ近年の何でもかんでも多様性という風潮に違和感があったため手に取った本書。そんな私に、人それぞれでもなく真実は一つでもない、正しさは共に作り上げていくものという考え方を指南して頂けた。理解することをあきらめない姿勢をこれからも続けて生きていきたい。

 

表紙

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目次

  • はじめに
  • 第1章 「人それぞれ」論はどこからきたのか
  • 第2章 「人それぞれ」というほど人は違っていない
  • 第3章 「道徳的な正しさ」を人それぞれで勝手に決めてはならない
  • 第4章 「正しい事実」を人それぞれで勝手に決めてはならない
  • おわりに 「人それぞれ」はもうやめよう

 

要約・メモ

(はじめに)

  • 人や文化によって価値観が異なり、それぞれの価値観には優劣が付けられないと言う考え方を相対主義
  • 「正しさは人それぞれ」「みんな違ってみんないい」の主張、多様性を尊重するところか、異なる見解を権力者の主観によって力任せに切り捨てることを正当化する恐れ。
  • 様々な問題について客観的で正しい答えがあると言う考え方を普遍主義。真実は1つ。
  • 人それぞれの相対主義か、真実は1つの普遍主義かと言う二者択一に陥りがち、どちらも相手のことをよく理解しようとしない点では同じ。それぞれの間の道をどちらかに落っこちないように気をつけながら進まなくてはならない

(第1章)

  • 普遍性を探求し、自分たちが作り出したものこそが普遍的だと考えるのが、西洋文明の特徴。
  • 第二次世界大戦後の文化相対主義:人は文化や社会によって形成。ある文化に属する個人は概ね同じ。多様性の単位は個人ではなく文化と言う集団。
  • フランス現代思想からアメリ新自由主義。個々人の自由を偏重して平等を軽視。個々人は他人に迷惑をかけない限り何をしても良い。他人と関わらないでおく。人それぞれの思想。
  • 人それぞれは個々人が連帯せずバラバラ、国家にとっては支配しやすい側面。多様性を求める市民の声、権力によって都合の良い形に骨抜きにされて広まった。

(第2章)

  • 言語学における文化相対主義:言葉の意味の多様性は人間にとって理解可能な範囲にとどまる。「言葉の意味は言語それぞれ」というほど、言語は異なっていない。
  • 文化人類学における文化相対主義:人間が生物として生きていく上で必要なことは基本的に同じで、社会はまずはそれらを満たすために構成される。
  • (ドナルドブラウン「ヒューマンユニバーサルズ」より)人間におけるさまざまな普遍的なもの。言語を持つ、物語や詩を作る、火を使う、集団生活を営む、インセストが禁止される、男性が政治的に優位な立場を占める、礼儀作法やもてなしがある、甘いものを好む、宗教や呪術がある、など。
  • →それ以外の生き方をするのは間違っているというのは早計。「事実としてそうである」ということと「そうすることが正しい」は別のこと。
  • 「人それぞれ」「みんなちがってみんないい」というほどには、人は違っていない

(第3章)

  • 道徳や倫理に自然な根拠があると考える誤りを自然主義的誤謬(ごびゅう)。みんながやっているからといって正しいとは限らない。
  • 「正しさ」は個々人が勝手に決めて良いのではなく、それに関わる他人が合意してはじめて「正しさ」になる。正しさはみんなで作っていくもの
  • 道徳的な善悪は、人間が他の人間に対して抱くさまざまな感情を出発点として作られていく。
  • 功利主義:最大多数の最大幸福、唯一の普遍的原理で説明。真実は一つという立場。人間は幸福を求めるもの。ユーティリティ中心主義、有用性・役に立つ、人間の幸福に寄与する。
  • 利己主義:他人をないがしろにして自分だけの利益を図ること。
  • 功利主義への批判①他人の幸福をどうやって測るのか?正しさは一つの行為に複数の人間が関わるときはじめて作られていく。②社会全体の幸福が増大するなら誰かが不幸になっても良いのか?社会全体のために不利益を我慢しなければならない、あくまで納得の得られる程度。
  • (サンデル)経済学批判:経済的な価値以外の価値もあると主張。それを得るのにふさわしくない人がいくら欲しがっても得られないもの、与えるべきでないものがある。例:ノーベル賞
  • 道徳的な正しさは、「最大多数の最大幸福」という唯一の原理で説明し尽くすことはできず、人間の価値観の中には「道徳的な善悪」という特別な領域が存在
  • 進化倫理学が扱う問題:私たちは他人と助け合うことに大きな喜びを感じる感性。一方、不正に対する怒り(他の動物にはあまり見られない感情)。
  • (進化生物学者リチャードアレグザンダー)間接互恵の理論:見返りを求めない利他的行動を説明するもの。直接的な見返りがない相手に親切にすることで、社会の中での評判が良くなり結局その人の利益になる。他人に親切にすることに無条件に喜びを感じるような感性こそが、進化してくる。
  • 「正しさ」への合意形成がどのようにして行われるべきか。①道徳感情が人類普遍的であり、それをもとに形成される社会のあり方にも人類普遍性があるからといってそれが正しいとは限らないということ。②個々人が感じる道徳感情と善悪そのものとは異なるということ

  • 「絶対正しいことなんてない」「何が正しいかなんて誰にも決められない」などの言葉を聞くたびに寒気。より正しいことを求めていく努力をはじめから放棄する態度。どんなに話し合っても国民全員が合意することはないかも知れない。たとえ全員合意してもまだ生まれていない子供は合意していない。その意味で絶対正しいはないかもしれないが、「より正しい正しさ」はある。一方的に決めたルールを暴力によって抑制するより、話し合ってお互いに納得して決めていく方が正しい。
  • 努力をしないで済ませる態度を助長する。趣味や好みなど他人と同じにしなくても問題ないことは「人それぞれ」で結構だが、他人を巻き込むことについては済まされない。社会が分断され、結局のところ暴力に頼るしかなくなる。
  • ある行為の正しさは、それに巻き込まれる人たちが合意することによって正当化されるもの

(第4章)

  • 事実は人それぞれと主張する人たち、ものの見え方は人それぞれではない。道徳的な正さと同じで、正しい事実はそれに関わる人たちの間で作っていくもの(例:トランプ大統領オバマ大統領の就任式の人出)。
  • 「自分の目で見たことしか信じない」、人間は自分が知覚しているものすべてに気づいているわけではない。周りにどんなものがあるかといった非常に基本的なレベルにおいても、正しい事実は他の人と共同で作って行かなければならない。
  • 世界の中の物体の存在や動きについての共通理解が大前提。「知覚は人それぞれ」だと、私たちは他人と共に生きていくことができない。
  • 感覚器官による知覚認識が共有されていなくてない。(リンゴを見せてリンゴじゃないと言い張る)
  • デカルト)私が知ることができるのは私の意識に現れたものだけ。近代哲学はデカルト的な見方に大きく影響。
  • 2000年以降の実在論復権。「世界や物は私たちがどのように認識するかとは関わりなく存在している」。真実は一つ。
  • マルクスガブリエル)物はある特定の背景やコンテキストにおいてのみ存在する。さまざまな意味の場に現れる。「存在は多様だが、その多様性それぞれに実在性がある」
  • チンパンジーのような人間に近く知能も高い動物であっても言語を獲得することは極めて困難。ところが人間の子どもは、周りから少しの手掛かりを与えられるだけでスムーズに言語を獲得してしまう。これは人間は「意味の場」を共有しているということ。
  • これから言語を学ぶ子と、すでに言語を持っている周りの人たちとの間には、論理的に飛び越え困難な溝がある。にもかかわらず現実に子どもたちはその溝をやすやすと飛び越え言語を獲得する。その飛び越えを可能にするのが人間の創造性(新たな理解や解釈を作り出す力)
  • 二次方程式の解、必然的に導き出されるのではなく独創的(偶然)による。他の学問でも同じ。論理は必然だが偶然でもある。
  • 「意味の場」は人間と関わりなしに存在しているのではなく、人間が独創的な思いつきによって新たに開いていくもの。それが他の人にも納得され共有されて「正しい事実」が作られていく。
  • 発明される前に自動車が存在しないのと同じように、発明される前に二次方程式の解の公式も存在しない。人間学がやりたいことを実現するための道具として定理や公式を発明していく。
  • 「意味の場」を開くのは人間の欲求や関心の持ち方、つまりは人と物との関わり方。
  • 人間は物をいつでも同じように扱う方法を工夫し、その工夫を他人と共有することで「より正しい正しさ」へ向けて合意を作っていく。

(おわりに)

  • 「正しさは人それぞれ」でも「真実は一つ」でもなく、「正しさはそれに関わる人々が合意することで作られる」。
  • 人は一人ひとり異なる個別的存在だが、同じ生物種として同じように感じたり考えたりする。事実として人はそれほど違っていない。
  • 相手が理解できないときは、どういう関心に基づいて、何の目的でそのように考えているのかを聞いてみて
  • なるべく暴力をなくして「より正しい正しさ」を作っていくように努力することが正しさ。正しさは人それぞれは、自分自身の正しさの根拠や理由についても考えない態度を助長する。
  • 近年、「感情の尊重」が顕著。不正に対しての怒りの傾向、暴力を駆り立てて極めて危険。感情が自分の主張の客観的な根拠を示す面倒なことをしなくても、ラクに自分の考えの正しさを保証してくれるように思える。
  • 「なんでも感じ方次第」という言葉は、困っている人を励ます良い言葉のように見せかけ、実は困っている人を困った状況に放置する態度を助長する言葉
  • 今こそどうしたら多様な個々人が抑圧されないようにしながら多数の人たちが連携できるのか、という大きな課題にもう一度真剣に取り組まなければならない。
  • 人それぞれはもうやめよう。そのときは踏みとどまって、相手のことを理解し自分のことを理解してもらおうとする努力を放棄しないことです