まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「だからフェイクにだまされる」石川幹人

どんな本

フェイクニュースが社会に只ならぬ影響を与えるようになって久しい。コロナ禍でも誤情報が人々を攪乱している。本書が進化心理学を基にフェイクニュース、ひいては人と情報を取り巻く遺伝的・文化的背景を解き明かす。

 

感想

前編にわたり至極まっとうな内容。安易にネットの罠、現代の魔女狩りに自分が足を突っ込まないようあらためて注意を高めたい。ネット社会と民主主義の関係悪については、個人的に最重要ポイント。ネット社会のデメリットは、我々が思う以上に大。

 

表紙

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目次

はじめに

第1章 見かけが作るフェイク

第2章 共感に訴えるフェイク

第3章 言語が助長したフェイク

第4章 自己欺瞞に巣くうフェイク

第5章 科学の信頼を利用したフェイク

第6章 誤解から生じるフェイク

第7章 結束を高めるフェイク

終章 フェイクとどのように対処していくか

 

要約・メモ

  • 現代はフェイク時代。民主主義を増進するはずの自由な情報メディアの浸透が、かえって世の中に秩序を損なっているよう。このままではいけないと言う分岐点にわれわれは立っている。
  • フェイク時代の道標は幸い見えている。進化心理学から見ると、私たち人類は「協力上手なサル」。古代では協力が不可欠、現在のフェイクにまんまと騙される。
  • 情報社会がその便利さと裏腹に居心地が悪いのは、人間の本性と社会構造のミスマッチ。その現状と可能な対応策を、数々の角度から具体的に述べ、フェイクへの対応手段を見出せるようにする。

(第1章)

  • 情報の信頼性は伝える人の印象に左右される。
  • 印象判断の源は動物の時代に遡る
  • 力強いリーダーに惹かれる
  • 嘘つき上手の嘘は見抜けない
  • 情報源の信頼の由来を確認しよう

(第2章)

  • 共感に基づく行動は魅力的:打ち消し表示、個人の感想です。生産者の顔が見える野菜。
  • だまし合いから信じ合いへの転機:進化の過程でチームワーク、協力集団へ。「真実バイアス」聞いた話をまずはホントと思う傾向。
  • 共感を支えるミラーニューロン:他者の行為だ自分の行為のように感じ取れる鏡(ミラー)のような働き。
  • ヒトは情報源を気にしない
  • 商品よりも自分を売り込め
  • 共感の利点と欠点を天秤にかけよう

(第3章)

  • 言葉が持つイメージを利用せよ:別府温泉、特許取得。
  • 言語の発達が嘘を容易にした:モスをマンモスに。
  • 虚構を想像するサル:チンパンジーは自分の死期が迫っていても動じない。人間は未来を想像して運命の構築に成功した反面、虚構を信じ合って広める習性を持ってしまった。
  • ウソも皮肉も使いよう:皮肉は直接で、間接で伝わると危険。
  • 言語の切れ味の鋭さ:性格の明るい人、暗い人、言語による単純化は弊害起きる。性格診断は一掃されて良い。
  • 言語の限界を見極めよう:言語は物事をぼんやりと柔軟に表現できたり、逆にきっぱりと表現できたりする利点がある反面、予想外の事物を表現対象に含めてしまったり、大事な事物の存在を隠してしまったりする欠点がある。

(第4章)

  • すっぱいブドウと甘いレモン:自己肯定感を無理矢理高めようとする行為「自己欺瞞」。自己欺瞞は心の安定を図る大きな利点がある一方、現実を見失う欠点もある。
  • 自己肯定によって集団の一員になる:任された仕事をうまくこなす必要。できそうもない高い目標、できそうだと思い込ませる。
  • 自己欺瞞にまみれた私たち:「自尊心を高めよ」「アイデンティティーを確立せよ」のスローガンには要注意。どちらも不必要に自己欺瞞を高める負の効果がある。協力手段が希薄な現代社会では、複数の集団に所属、1つのアイデンティティー確立に固執しない方が良い。
  • 正直者は鬱になる?:鬱の傾向ある人は、自分の低い能力を正当に低く評価できることが判明。うつ病は女性が男性の約2倍、生物学的裏付け。
  • 親切は評判づくりの手段:評判の有用性、そこにフェイクが紛れ込む。
  • SNSで承認を求める:自ら情報発信する場合は、承認欲求のあり方についての自己分析をし、適切な内容を誤解のない表現で行う態度が大切

(第5章)

  • 事前事後比較の罠
  • 科学とはパターン化による未来予測法:科学的な根拠を信頼しすぎる傾向。科学は生活上有用な知恵から発症。科学の知恵を科学の体裁を持ったフェイク富見分けるには、それが未来を予測したり未来をコントロールしたりできるかと言う有用性の店から判断するのが良い。これが科学的思考の本質
  • 過剰生産される理論:理論を確かめる作業、個人では不可能なため、確認済みと誤解させるフェイクが蔓延する。
  • 確証バイアスが信念を深める:理論が正しいことを示そうとデータを集める行為「確証バイアス」。自分自身を反省し失敗しても再起できるという事実からくる自信を、ネット利用より先に形成すること。
  • 人に合わせる社会が持つ弱点:チンパンジーと人間の比較実験、儀式的操作も必要という社会的認識を優先した行動をとった。フェイク情報の伝播にも深く関わっている。
  • 科学者は理論を主張する:「科学はいつでも確実で正しい」という誤解。

(第6章)

  • 損失回避のための選択:人間は合理的な存在でなく、感情や欲求に左右される動物的な存在。社会の動きに大きく影響。
  • 生き残りをかけたギャンブル:ネット炎上は現在の魔女狩り
  • 確率の誤解が生む確信:情報の受け手は、情報の確実性を推し量る難しい作業より、それによって具体的な行動を取る取らないの判断を先行させやすい。その時正義感や貢献したい欲求が背中を押すと容易に「犯人探し」行動に加担する。
  • コミュニケーションが作るフェイク:誤解が生じにくい言語活動の方法を確立する必要性。
  • メディアが煽る感情:自分の考えを補強する情報ばかりが提供される(フィルターバブル現象)。社会の分断が助長されるのも当然。
  • 訂正されない誤解

(第7章)

  • 人心をつかむ大きな話:ノストラダムスの大予言
  • ウソ活用社会の登場
  • 外に敵を作れば一体感が増す:専制国家の最大の弱点は、社会の協力から生まれる創造性を失ってしまうこと。私たちが生来持っている協力を先行させる姿勢を消極的にする。疑心暗鬼、伝統的なルールに従うのみの生活。変化を続ける現代社会の適応力が削がれていく。
  • 多集団所属に伴う葛藤:団体の理念やスローガン、危機のない段階で将来の危機をあおるのはフェイク。封建的な雰囲気になりがち。集団ごとに異なった役割を果たすことが自己実現へ。自己を柔軟にに演出できる人が現代の文明環境への適応
  • 集団先行の日本社会:集団主義個人主義。日本も米国も重視するのは同じ。順番が違うだけ。
  • 陰謀論を超えて:フェイクについて考えることにより、私たちの民主主義の理想やその成立基盤も明確になる。たとえフェイクであっても価値ある情報として、真摯にその背景の分析に取り組んでいきたいもの。その仕事を専門的に行う人々への社会的な支援を教えてはならない。

 

★社会制度を変えて自己欺瞞をする必要の少ない社会を築き、心理的な不安定をきたさない状況を作りたい。行き過ぎた自己欺瞞の症例には大きな問題。ポジティブシンキングと言って何事もいいように考えようと言う運動は、成功に向けた努力の芽を摘んでしまう恐れ。自己愛傾向(ナルシシズム)を正当化し増長させる恐れ。自分への批判を攻撃と捉え他人に暴力を加えたり、自分が評価されない原因を社会の声と反社会的行為を発揮したりする。

★適度な自分だまし運動を推進、自分には才能があると思って努力するが、その思いが間違っている可能性も少しあると考えて。もし間違っていた場合には、今度は別の才能があると思い直して、別の分野で努力を続けるのが良い。

★信頼性は低いが発信が自由であるサービスと、発信内容に規制はかかるが信頼性が高いサービスを分けて、それぞれ別々に運営していくのが良い。