どんな本
東京大学・未来ビジョン研究センター客員教授である著者が、現在の若者が抱える複雑で微妙な心理を解読、その性向を「いい子症候群」というフレーズに乗せて、分かりやすく、コミカルに描写していく。いい子症候群の若者たちとは一体何なのかを浮き彫りにすると同時に、大人が作り上げた現代社会に対する強いメッセージが問題提起される。
感想
個人的に2022年上半期ベストに挙げたい。現代の若者を風刺的に描くのみの内容と思いきや、そんな若者たちを育ててきた大人への痛烈な批判・提言書となっており、まるでカウンターパンチを受けた感覚。我が身をあらためて律し行動していきたいと強く思えた、至極の一冊。
表紙
目次
- 第一章 先生、どうか皆の前でほめないで下さい
- 第二章 成功した人もしない人も平等にして下さい
- 第三章 自分の提案が採用されるのが怖いです
- 第四章 浮いたらどうしようといつも考えています
- 第五章 就職活動でも発揮されるいい子症候群
- 第六章 頼まれたら全然やるんですけどね
- 第七章 自分にはそんな能力はないので
- 第八章 指示を待ってただけなんですけど
- 第九章 他人の足を引っ張る日本人
- 第十章 いい子症候群の若者たちへ
要約・メモ
(第一章)
- タイトル「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」はどういう心理か。①自分に自信がないこととのギャップ、自己肯定感は基本的に低く能力面において自分はダメだと思っている。その心理状態で人前でほめられるのは自分への大きなプレッシャー、「圧」となる。②ほめられるとそれを聞いた他人の中の自分像が変化したり、存在の印象が強くなるのを恐れる。目立つことへの抵抗感が絶大。そんな彼らにも承認欲求はちゃんとあり、人前でないところでほめられることは原則、好意的に受け止める。
(第二章)
- 本書テーマの背景にあるのは究極の横並び主義。それの象徴が完全一律な平等分配。現在の若者は競争がとても嫌い。社内表彰制度、「モチベーション上がらない。むしろ会社に誘導されている気がして冷める」という考え。
- 料理の食べ残し、食べていいよと言っても学生は食べない。「残すと次の予算が減らされる、誰か助けて」と言うとほぼ全ての学生が動き出す。どちらの意思で行動が発動するかが超重要。自らの意思で自らの欲を満たす行為は恥ずかしく貸を作ることになる。施され求められる助けに応えるだけ、社会貢献的。究極のしてもらい上手。
(第三章)
- いい子症候群の物事の決め方:①誰かに決めてもらう、②例題に習う、③みんなで決める。
- 山本五十六「やってみせ 言って聞かせて〜」は通用しない。
- ものごとが決められない代わりに、究極のしてもらい上手。若者に何かしてあげたいと言う欲=大人の自己効力感を、見事に操る。
(第四章)
- 学食でもキッチンカーでもない、生協に長蛇の列。浮いたらどうしようという心理。
- 1番怖いイベントは自己紹介。前の人の完コピー。
- 競争意識の低下。8勝7敗ではなく1戦1勝。
- 競争より協調、協調より同調。
(第五章)
- リクルートスーツは若者自身のためにある。
- なぜ大学生たちは地方公務員になりたいのか。ポイントは大学生にとっての「安定」。メンタル的安定の意味も。
- 企業を選択する理由、①安定②やりがい③働きがい④給料⑤若手が活躍できる。(マイナビ2022卒大学生就職意識調査)
- ヨコ中心の社会から、タテ中心の社会で強制転換させられるのが就職。
- 「最近の若者は課長にすらなりたくない」は既に時代遅れ。出世自体がもはやどうでもいい。
- 職場の飲み会には参加。最近の飲み会はクリーン、お客様モードで適当に周りに話を合わせてご飯を食べて帰る。
(第六章)
- 仕事観4か条:①自分の能力を生かしたい、②自分の能力で社会貢献したい、③個性を生かした仕事で人から感謝されたい、④ありがとうと言ってもらえるような仕事がしたい。
- 日本生産性本部「新入社員働くことの意識調査」データ①会社を選ぶ時に重視する要因、データ②仕事を通してどのような生活を送りたいか。
- 若者にとっての社会貢献とは:誰かに「貢献する舞台」を整えてもらった上での貢献を意味する。
- 「社会貢献=身近な人たちからの承認欲求の向かう先」という方程式。自分がやりたいのでやっていますという状況とは真逆の立ち位置にある。
(第七章)
- チャレンジ精神の阻害要因:①自分の能力ではできない②挑戦したいことがない③失敗が怖い④友人の反応が気がかり→いい子症候群の若者たちを反映。
- 日本のアントレプレナーシップ気質、世界平均と比較して極めて低い。
- 不足三兄弟:能力がない、知識がない、経験がない。
(第八章)
- 「指示待ちのジレンマ」指示は具体的なら具体的なほど良い。指示を曖昧にすればするほどモチベーション下がり、リアクションも薄くなる。
- 強まる保守安定志向、学歴志向。僕が僕であるために盗んだバイクで走り出す、そんな時代は変わった。
- 実力よりもコネが大事、役職や肩書が重要、資格を生かして仕事したい、のいずれも数値が上昇。
- ①日本の経済成長が止まった後に生まれていて、挑戦が成長につながると言う実感できない。②景気低迷と格差拡大、いちど失敗すると復帰できない恐れ。③小さい頃から廃業失業リストラなどの社会現象を目の当たりに、早く既得権益を得ることの重要性。
- 著者の解釈:挑戦が成長につながることを実感できないのは大人であり、いちど失敗すると這い上がれないと思っているのも大人であり、既得権信者もやはり大人である。大人たちがそう思ってるから子供たち若者たちに空気感染する。若者たちはこの30年間、日本の大人たちがやってきたことをコピーしているに過ぎない。
- 私が考える良い子症候群の最大の課題は、彼ら自身は単体で何の付加価値も生まないことだ。デジタル社会が定着したとしたら、日本企業の競争力はどうなるのか懸念。
(第九章)
- 若者に期待する全ての人に問う。もしあなたが若者だったら、そんな大人の期待に応えるか?リスクを取らせ、自分は支援者としてぬるま湯に浸る。そんな人どう思うか?
- 若者は現役選手しか尊敬しない:過去の栄光、昔話は聞き飽きている。
- 若者が変化を好まず、挑戦を避け、守り一辺倒の内向き志向となっているのは、若者が育ってきた日本社会がそうだからだ。挑戦や変化が成長につながらず、チャレンジしても得られるものがないと若者が思っているのは、大人がそう見せつけてきたからだ。
- 本書の提言:大人のあなたがやるべきだ。まずはあなたが挑戦するべきだ。あなたが挑戦し、失敗し、復活するところを堂々と見せるべきだ。若者の前でこう言ってみて欲しい。「自分はもう一度これをやりたい。今度は絶対成功させたい。だから手伝ってもらえないか」⇒現時点で筆者が考える、若者の心を動かす最強のフレーズだ。
(第十章)(以下、若者へ)
- 仕事に普通なんてない。1時間おきに色んなことが起きる。そのいろんなことがあなたの心を侵食する。心の安定などない。
- 人は空気の発生源を自分の外側にあると考える。だが、空気の源はあなた自身なのだ。
- すべては主観。ネガティブをポジティブに変換。気持ちの問題は行動の問題。行動が変われば気持ちも変わる。
- 目的を持った学習は自分を強くする。自ら学ぶものを決めるという選択肢を行使して。
- 学習は自分のために、わがままにやるべき。求めなければ得られない。不変の真理。与えてもらうばかりではいつもあでも自己肯定感は上がらない。
- やりたいことがない人、もう少し視野を広く。まずは行動。それを記録し自分で評価。ランキング形式で、共通点が見えてきたら一歩前進。
- やりたいコトだけでなく、身の回りのコト、モノ、ヒト、場所、時間などを愛して。
- 自分の巡り合わせを信じて、目の前に集中したらいい。このタイプこそ置かれた場所で咲く。
- いつの間にか行動が変わる3つの方法:①質問力を鍛える、②メモの取り方を変える。自分の頭によぎったことをメモする。③いつもより少しだけ早く動き出すこと。一歩早く動き始めることで自己成長につながる。
- 「私は散歩が好きで、よく知らない土地を歩いたりするのだが、なんだか今日はえらく疲れるな・・・と振り返ってみると、実は道が緩やかな坂になっていて、思った以上に高い場所まで登っていてびっくりすることがある。きついということは、それだけ高く登ったということ。心も同じで、きついのはそれだけ成長したということ。人は疲れやきつさは実感できるのに、成長は実感しにくい。若いうちは特に。ぜひ成長を積極的に実感しよう。他者比較ではなく、自分比較で。そして成長をいつまでも楽しんで。」