まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

日々への感謝とアウトプット

読了「まちづくり幻想」木下斉

どんな本

地方創生が叫ばれてからはや数年。日本の地域は再生どころかますます衰退へ。そこには「まちづくり幻想」が存在した。全国の実践例と最新の統計をもとに暴き出す、誰も言わなかった本音のまちづくり論。

 

感想

まちづくりを自分なりに実践している身として、いつも刺激を頂いている木下氏による最新刊。さすが地域の中の濃密な現状をよく把握されている。コロナ禍以降に書かれている点も興味深い。地方のまちづくりはまだまだこれからが面白い。

 

おすすめ度 ★★★★☆

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要約・メモ

(第一章)

・大企業の地方拠点は手放しに良いことではない

企業城下町モデルは撤退がリスク

・地域産業で大切なのは一部の強い企業に頼らない重層的な集積。中長期にわたって地元資本で続けられていくことが大切。「この地域はだめだ」と切り捨てられたら終わり。

・スペインバスク自治区労働者協同組合が発達。社員が株主型の組織。①法外な収入の強者がいない②消費生活協同組合とのハイブリット型。地元でお金が回る。

・東京一極集中が終わったと言うフェイクニュース。郊外に移動しただけ。

・地方創生とは、本来稼ぐインセンティブを復活させ、地方が独自かつ多様な発展をしていくための「権限と財源の一体的な委譲」など考えさせるものであったが、回復不可能な「人口問題」にすり替えられた。

・経済的成長をあきらめるのではなく、今までとは異なるアプローチでの経済成長シナリオが必要。

・付加価値の高い製品を少人口で作るから地域が長期にわたり繁栄する。フランスで最も所得が高い都市エペルネー、シャンパーニュ市場で6400億円のシェア。街のほとんどが農地、ぶどうから作る農業加工品。

(第二章)

・内発的な力があるチームを作り出せるかどうかがすべて。トップの仕事は良い人事。

・「学び、動く組織」が地域を変える:①オガールプロジェクトで有名な岩手県紫波町。ワークショップの外注をストップし職員に研修。②大阪府大東市、公民連携プロフェッショナルスクールに2年連続入学。

・なぜ女性は地方から東京へ移動するのか。地方社会が女性に閉鎖的で成長機会に乏しいと認識

・女性が望む仕事を作ることこそ民間トップのミッション。宮崎県日南市マーケティング専門官の田鹿倫基さんら。油津商店街の空き店舗にネットメディア系企業のサテライトオフィスを誘致。

・地方の働き手不足、人口減少だけではなく明確な別の問題。地方で求められる労働自体が「低賃金・長時間労働」で血縁を基礎とした付き合いなどがあるため。

・過去の常識や伝統を変えていく新たな付加価値の高いビジネス、生産性の高い仕事の仕方こそが、新たな人材を健全な形で地方に集め、その地域の課題克服に向けて風穴を開ける一手になります。

(第三章)

・あくまで民業による投資、挑戦に徹すること。地元の成功者を巻き込んだプロジェクト立ち上げ望ましい。

・地元に何代も続く信用される人、事業経験を積んできた人、やるべき投資をする人

・想いは口に出し、4つの行動で示す:①応援は具体的行動で、②様子見は潰しに加担と同じ、③10人中7〜8人から反対されるうちにやる、④他のライバルを育てる

(第四章)

・何でもかんでも人口で語り、予算をかけて移住者を集めたり関係人口を増やそうとするのは注意。常に点検しながら付き合い必要。

・よそ者と地域の適切な距離感を。地域がよくなるとはどういうことか、よくわかっていないまま「よかれ」と手伝う。

・外の資本で稼がれるといくら人が集まっても地元は豊かにならない。雇用創出は大事だが低賃金労働では出口なし。

・地域経済構造の把握にはRESAS、経済学的な知見は「まちづくり構造改革(中村良平)」がおすすめ。

・「外の人」とのプロジェクトで期待すべきは、残された時間、残されている資本で、いかに外からの稼ぎを作っていくか(制度以外で)

・(二宮尊徳経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である。関係人口も同様で繋がりなど人徳の世界も大事だが、経済も大事。渋沢栄一論語と算盤。地元に住んだり訪れるだけではなく「新たな消費」に貢献してくれること。

・今の地方の問題点、何でもかんでも外注。移住定住キャンペーン、Youtube動画。

・外注主義で奪われる地域の3つの能力:①執行能力がなくなり自分たちで何もできなくなる、②判断能力がなくなる・人にやらせる業務の設計まで外注、③経済的自立能力が削がれ、カネの切れ目が縁の切れ目となる⇒※外注依存の毒抜きのためにも、自前事業を一定の割合で残すこと

・地域おこし協力隊、外からくる若者に対し「お手並み拝見」の様子見、成功すれば「外からきたくせにずるい」と足を引っ張る。

・外の人を呼ぶ上で意識されるポイント:①兼業規程は全国一律でOKにすべし、②特技(手に職)がある人を優先して採用すべし、③募集側も一定の事業想定を持ち、人を探すべし、④地域おこし協力隊と地元民間メンターとの相互管理をするべし、⑤集落支援業務は分離すべし

・初めての事業4つの原則:①負債を伴う設備投資がないこと、②在庫がないこと、③粗利率が高いこと(8割程度)、④営業ルートが明確なこと

(第五章)

・先を行く地域の人は圧倒的に「未来の話」をする。過去の栄光や昔話は簡単だが、未来の夢を語るのは、主体的な考えや動機づけがなされていないと難しい。幻想をさっさと捨て、現実と向き合い、未来に向けたアクションをしていく地域にヒト・モノ・カネが集まっていく。

※「12のアクションプラン」

  1. 外注よりも職員育成
  2. 地域に向けても教育投資が必要
  3. 役所ももらうだけでなく、稼ぐ仕掛けと新たな目的を作る
  4. 役所の外に出て、自分の顔を持とう
  5. 役所内の「仕事」に外の力を使おう
  6. 既存組織で無理ならば、新たな組織を作るべし
  7. 地域企業のトップが逃げずに地域の未来を作ろう
  8. バイローカルとインベストローカルを徹底しよう
  9. 一住民が主体的にアクションを起こすと地域は変わる
  10. リスクを共有し、地元ではないからこそのポジションを持つ
  11. 場所を問わない手に職をつけよう
  12. 先駆者のいる地域にまずは関わろう