どんな本
小説「銀の匙」を中学3年間かけて読み込むという前代未聞の授業を行い、公立校のすべり止めに過ぎなかった灘校を名門進学校に導いた、伝説の教師と言われる氏が、教育や子育て、日々生きていくことのヒントを得られるべく著された一冊。灘校一筋50年、人生100年の橋本武氏が授業を通して、教え子たちに本当に伝えたかったこと。
感想
学びを楽しむ、人生を楽しむコツが、山のように書かれた良著。特に印象的なのは「横道にそれる」ことの大切さ。兎にも角にもムダを省き効率性を求める現代において、心に強く響いてくる金言といえる。ユニークな授業の裏にあるとことん努力家な氏の姿にも注目すべき。どんなに無意味で一見役に立たない、本人にしか分からないことであっても、深くのめりこみ探求すること、その環境づくりを大人が努めることの大事さを、子育てに関わる身として強く学ばせていただいた。
表紙
伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力 | 橋本 武 |本 | 通販 | Amazon
目次
- はじめに
- 第一章 学ぶことは遊ぶこと、遊ぶことは学ぶこと
- 第二章 生きる力、学ぶ楽しさのもととなる国語力
- 第三章 教えることで見える学びの本質
- 第四章 日常にあふれる学び、気づきへの横道
- 第五章 つまり人生とは学びの連続
- あとがき
- 特別付録 対談 遠藤周作×橋本武
要約・メモ
(授業編)
(画像出典:神奈川近代美術館)
- 中勘助の小説「銀の匙(ぎんのさじ)」を3年かけてじっくり読み込む授業法。教科書は一切使わない。
- 「学ぶ」という義務を「遊ぶ」という気持ちに切り替えられれば、子どもたちは進んで「学ぶ」ことに参加する。これを大人が教えてあげないといけない。口で言うだけではダメ。そのやり方が分からないから、自然にそう思わせる方向に導くこと。
- あそぶ・まなぶ、という字から何を思い浮かぶ?⇒最後に「ぶ」が付く。⇒「ぶ」の付く動詞を思いつく限り挙げてみて。⇒あいうえお順に当てはめた生徒に、⇒あかさたなの逆順をすらすら読んでみせる、生徒驚き。学びとはときに意味がなくても面白ければ良いのです。遊びの要素を取り入れて、つまり「横道にそれる」ということ。
- 「遊ぶ教育」は学校なら先生、家庭なら親が作っていかなければならない。「銀の匙研究ノート」、毎晩夜中まで「ガリ切り」し作成、好きなことだったので辛さはなし。仕事イコール趣味。
- 授業でのテスト、採点を生徒同士でやらせていた。何点でもOK。感じ方、考え方は人それぞれということを学ばせた。大事なのはテストの点数ではなく、日々の積み重ね。のびのびと勉強に励む。
- その場しのぎの暗記も仕方ないが、付け焼刃で詰め込んだ知識は、すぐに忘れて使い物にならなくなる。すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる。枝葉にまで疑問をもち、その疑問に対してじっくり腰を据えて考えないと効果は上がらない。
- 「国語力」がすべての学問の基礎になる。説明や設問などの文章を理解できないとはじまらない。国語力=生活力でもある。人間関係の基本、重要な場面において、国語力や読解力が試される。自然とそういうことがわかるようもっていくのが大人の役目。
- 「銀の匙」との出会い、読書家の友人と多読、乱読の競い合い。その時であったのが中勘助、全作品を読破。
- 日本の敗戦をきっかけに、教科書を捨てる決意。銀の匙を教材に、中勘助の自伝的小説。夏目漱石も絶賛した散文調で美しく、適当な長さで扱いやすい。日本的な生活様式や古くからの風習が多く登場。これを読み込めば、幅広い知識が身に付き、国語への興味をかりたてられると考えた。
(生活編)
(画像出典:新ガリ版ネットワーク)
- 読書を通じての人生経験を補足するため、銀の匙と並行して1ケ月に課題図書一冊を読ませた。わからなくても読み通しさえしておけば必ず役に立つ。
- 国語力のカギ、読むのと同じく書くこと。書くことで「判断力」「構成力」「集中力」が養われる。書けば書くほど自然に養われていく。
- 文章のうまい下手は関係なし。書いて書いて書きまくって、書くことへの拒絶反応を取り払った上で、はじめて文章作法が自然と身についていく。家庭でも簡単にできる。あらすじの整理や読書感想文、誰かに手紙を書くのも良い。ただ親があれこれ口出ししないこと。子供が自由に読み書きできる時間、環境を整えること。できれば子供が読んでいるのと同じ本を読んでみる。読書をする際には、読むことと書くことをセットだと考えてみて。
- 個性を開花させるための自由でのびのびとした環境づくりを大人が仕向けること。ただし、自由と好き勝手にやることは全く別。学校という共同生活の場では規律を守ること。社会に出てからも重要な意味を持つ。
- 信賞必罰。良い行い良い言動には褒める、規律を守らず迷惑をかけた生徒には叱る。
- 分をわきまえて自由を楽しむ。服装自由化、赤い服を着た生徒に分不相応さを諭した。
- 自己中ではいけない、まだ子供の証拠。人に対する思いやりが自然と身に付いた時、人ははじめて大人になる。
- 生きている限り、勉強や学びは付いて回る。だから面白くやったほうがいい。苦手に向き合うこと。自分自身の教科書を作る気持ちで。
(人生編)
- 詰め込み教育は時に必要。受験のための詰め込みは論外、「教養の詰め込み」を。近視眼的な目標ではなく、人生の方々で待ち受ける難問にぶち当たったとき必ず役に立つ。
- 趣味は人生の幅を広げる。のめりこんだ趣味が多いほど人生が楽しくなる。
- 常に疑問のタネを探して。答えは分からなくていいから、考えること自体が大事で面白い。いつでも頭を働かせて、当たり前に対してもなぜだろう?と疑問を。
- 「なりゆきに任せる」ことも大事にしている。それによって偶然にしては出来過ぎの結果を享受することが出来た。
- 出会いは必然、偶然ではない。育んだ縁は今もってまったく変わらず私たちを結び付けている。
- 教育の現場で、そして家庭で、今この瞬間に世界中の人と生をともにしている意味、そしてその関係を今後どうすべきなのか、を考えてみる。
- 教師の仕事とは自分の人間性を生徒に全力でぶつけること。