まちづくり・社会教育活動の実践あれこれ

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読了「生贄探し 暴走する脳」中野信子・ヤマザキマリ

どんな本

脳科学者の中野信子氏、漫画家のヤマザキマリ氏による、生き苦しさや負の感情から自由になりたい現代人のための処方箋として著された一冊。ヒトは放っておけば、少しでもはみ出した者を生贄にする生き物、だからこそ知性でそれを押しとどめる必要があるということを、科学や歴史文化・国民性など幅広い観点から紐解いてくれる。

 

感想

コロナ禍以降の自粛警察やネットいじめ、それらが起こる心理的・社会的構造を学びたく手に取った一冊。二人の著者、知性的過ぎるがゆえ難解な部分も多少あるが、それぞれ単独で書いた第1章と第5章だけでも必読に値。本当の正義について考え、自分も誤った正義を振りかざしていないかという自省の念にもかられた。ヤマザキマリ氏の提案「地球とそこに生きる自分のつながりをシンプルに感じること」には、自分の心のリセット方が合致。また社会心理学の分野にも興味が湧いた。

 

表紙

生贄探し 暴走する脳 (講談社+α新書) | 中野 信子, ヤマザキ マリ |本 | 通販 | Amazon

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目次

  はじめに

  1. なぜ人は他人の目が怖いのか 中野信子
  2. 対談「あなたのため」という正義
  3. 対談 日本人の生贄探し
  4. 対談 生の美意識の力
  5. 想像してみてほしい ヤマザキマリ

  おわりに

 

要約・メモ

中野信子氏)

  • 多様性、というキラーフレーズ。その単語を入れておきさえすれば許される風潮を危惧。
  • 個体一人ひとりの考え方からは良識に思えるが集団を成すと凶暴化。誰のコントロールも受け付けない。異物を排除しようといつも生贄を探している。
  • 他人の失敗や不幸を喜ぶ感情をドイツ語由来の学術用語で「シャーデン(損害)フロイデ(喜び)」という。ネットスラング「メシウマ(他人の不幸で今日も飯がうまい)」に通じる。
  • 人間の脳は他人に「正義」の制裁を加えることに喜びを感じるようにできている。
  • 人間とは誰かと自分を比較し、自分の基準よりも他者との比較を優先しやすい悲しい生き物。
  • 「協調性という名の蟻地獄」win-winよりもlose-lose
  • 釈尊「自分にとって自分は大事、だからこそ相手も自分のことが大事だということを尊重し合うことが大切」
  • プラトン「人にはやさしくありなさい、人はみな生きるのが大変なんだから」
  • エドガールモラン「多元的ではあるが全体的ではない政治を考え出そう

ヤマザキマリ氏)

  • ヒトという生き物は体だけではなくメンタル面も鍛える必要ある。いとも簡単に生体バランスを欠いた危険生物と化す。そのためには、想像力を持ち腐れないようにすること。自分の思いを自分の力で言語化する。
  • 落語の噺、失敗・騙され・失望・もがきながらも面白おかしく生きる人。江戸時代や昭和では、理不尽かつ不条理な人生の本質を大笑いしながら自分を慰め励ましていた。人間を必要以上に理想化せず、高望みせず、どんな生き方をしようと人情という寛容性が当たり前に身についていた。現代にはない成熟。そう考えると明治維新に始まった急速な西洋化が、人々のかっこ悪さやみっともなさを人情という美徳と捉えていた心のゆとりを払拭してしまったひとつのきっかけだったのでは。
  • イタリア人夫の言葉「困ったり苦しんでいる人を、純粋な慈愛をもって助けてあげることができるかどうか、そういう人間がどれだけいるかどうかが人類の文明の尺度になると思う」。
  • 自分が信じている信念に従わない他者を戒めることは、どんなに宗教的理念や政治思想が根拠になっていようと、正義ではない。

 

著者の提案

  • 人生は有限。人を素直に祝福称賛できる器を持った人と楽しく過ごしていきたいのであれば、スパイト行動(相手の得を許さない)をとる人が多い環境を避けること村八分を恐れ同調せざるを得ない環境にある人は、出過ぎた杭は打たれないの通り、相手の妬みを憧れに変え自分を生贄にするよりも生かして仲良くした方が得だと思わせられるまで自分を磨きぬくこと。
  • 自分と分かち合えない意見や思想とぶつかったら、まずはそれを興味深く、面白い現象として受け入れてみればいい。
  • 現在のようなコロナ禍の危機的状況を乗り越えるのには、外部からの情報に翻弄されず、冷静に自分の頭でものごとを考えること、自分と同じ考えを持たない人との相互理解。
  • 知性を怠惰なまま放置しないで
  • どうしても納得させないと気が済まないのであれば、何かそれとは全く関係のない別のことに意識を向けて。
  • 広く視野が開けた、自然の多い場所へ出向き、地球とそこに生きる自分のつながりをシンプルに感じること
  • 空に向かって思い切り深呼吸をするなど、大気圏内で生きる生物である自分を感じること。